第5章 五夜目.雨
—3小節目—
逢
とある公園の、とある大木の下。壮五はそんな場所に駆け込んだ。予想通りそこは、生い茂る葉のおかげで水滴はほとんど落ちてこなかった。しかし予想外のことがひとつ。それは、この場所に先客がいたことである。
赤いベンチにぽつりと一人、女性が腰掛けていた。彼女の身体が全く濡れていないところを見ると、この雨が降り出す前からここにいたのだと思われる。
そこでさらに、壮五は全く予期していなかった事態に見舞われる。
その女性は、涙を零していたのだ。
落涙するその瞬間に、彼女と壮五の視線は交錯する。凝視してはいけないと分かっていながら、壮五は目を背けることが出来なかった。かと言って、何か言葉をかけることも憚られた。そんな彼に、女は困ったように笑って告げる。
『雨ですよ』
悲しい嘘が、壮五の胸を撃つ。彼は、気が付けば自らのハンカチを差し出していた。
「急に降ってきましたからね。よければ使ってください」
彼女は、髪から水を滴らせる男が差し出すハンカチを見て笑った。壮五は何故か、その笑顔を見てほっとする。
『私より、貴方の方がびしょ濡れですよ。
はい。これで、雨を拭ってください』
二人は優しい笑顔を浮かべ、互いのハンカチを取り替えた。