第5章 五夜目.雨
叔父という精神の支柱を失くしてから、長い長い年月が経過していた。心に負った傷は癒えるどころか、大切な人を死に追いやった原因である肉親らに対する憎悪が募るばかり。
家を出ようと思えば出られたろう。しかし彼は、その道を選ばなかった。ただ、ずるずると。ずるずると、決断を下せぬまま今に至っている。
大学に通う傍らで、父親の会社経営を手伝う生活。そんな多忙な中でも、所持している株式を動かし貯蓄をしていた。慎ましやかな一人暮らし生活を送るには十分過ぎる軍資金を、彼はとうに所持している。
ただどうしても、父親と対峙することが億劫だった。家を出たいと切り出すのも。会社を継ぎたくないと打ち明けるのも。やりたいことがあると悟られるのも。全てが億劫で、壮五は全てを諦めていたのだ。
空から聞こえた低い唸り声に、はっと顔を上げる。見ると、暗い雲が空を覆い始めていた。鉛のようになってしまった自分の心も、きっとあんな色をしているのだろうと眉をひそめる。
これは本降りになりそうだ。さすがに雨宿りを考えた方が良いだろうと、彼もようやく周りの人達と同じように足を早めた。