第1章 一夜目.5時限目の空
今の関係に不満はない。だが、もっと良い関係に手を伸ばさないつもりもない。そして関係を変えるならば、やはり男から動くべきだろうと一織は考えたのだった。
そして、やって来た放課後。繰り返しになるが、ラストチャンスだ。
「あの、エリさん」
『ん、どうしたの?改まって』
「実は、たまたま映画のチケットが二枚手に入りまして。あなたが以前、観に行きたいと言っていたものだと記憶しているのですが、もし都合が合えば、一緒に」
『行きません』
こうなることも、当然ながら視野に入れていた。だが、ここまで被せ気味で断られるとは予想外である。なるべく傷付いていないふうを装い、分かりましたと答えよう。しかし一織がそう言うより早く、再びエリの方が口を開いた。
『そんな誘い方じゃ、行かない』
その悪戯っ子のような笑顔に、一織も思わずつられて笑う。
「…ふふ。あなたは本当に…面倒くさい人だな」
『あれ?いま一織くんが紡ぐべき言葉は、そんなので良いのかな?』
「失礼しました。テイク2もらえます?」
『勿論!どうぞ』
一織は、頬が熱を持っていくのを自覚していた。しかし、顔を隠さず真っ直ぐに誘う。どうかこの手を取ってくれという願いを込め、右手を差し出して。
「私と、デートをしませんか」
喜んで。と、エリは一織の小さな願いを叶えた。