第4章 四夜目.恋のかけら
—19小節目—
企て
環の真剣な顔が、エリを見下ろしている。
「あんたはどう思ってんのか知んねえけど、俺だって男だかんな」
どうしてこうなったのか。話は一時間ほど遡る。
ちょうど今日は、エリ達が恋人となってから二ヶ月が経った日であった。さらに、環の誕生日でもある。
愛すべき彼氏の誕生日を祝うため、エリは彼の部屋を訪れていた。
いつもの調子でメンバーに挨拶をしたのだが、ナギが相変わらず美しい顔でエリに告げる。
“ 今宵、ワタシとソウゴはミツキの部屋で夜通しアニメ鑑賞会を行います。これが意図しているところ、賢いアナタならお分かりですね?”
もちろん分かる。壮五とナギの部屋は、環の部屋の隣に位置している。すなわち今夜は、両隣の住人が不在だということだ。もし仮に、多少なりと大きな声を出してしまったとしても誰に聞かれることはない。
『ケーキ食べようか』
「食べる!」
環の部屋で、ケーキに小さなナイフを入れながら息をつく。
付き合って二ヶ月。環と “そういうこと” どころか、キスすらしていないことを皆んなは知っているのだろうか。だとすれば、少し恥ずかしいかもしれない。しかし、エリはほんの少しも焦ってはいなかった。
実年齢より少し幼い彼と、こうしてゆっくり進んでいくのも悪くはないと思っていたからだ。
『タマちゃん、ほら。クリーム付いてるよ』
エリは迷わず、彼に向かって手を伸ばす。それから、唇の横の生クリームを自分の口へと運んだ。その様子を、何故かじっと見つめている環。そのまん丸な瞳が可愛くて、エリは再度手を伸ばした。
『ふふ、どうしたの?急に大人しくなっちゃって!もう、可愛いなあ』
綺麗な薄青の髪を、くしゃくしゃと撫で付ける。するとその手を、環は素早く掴んだ。
そして、エリの世界はぐるりと反転した。