第4章 四夜目.恋のかけら
エリは床に両膝を突いて、環を腕の中に閉じ込める。急に引き寄せられた彼は最初こそ驚いた様子だったが、次第に身を委ねてくれた。
「いいのかよ…?まだ恋人じゃないのに、こんなことしてさ」
『ふふ… “まだ” って。タマちゃんの中には、私と恋人になる未来しかないんだね』
「当然」
環は威張るように断言すると、幸せそうにエリの腕の中で目を細めた。
『タマちゃんはまだ若いから。これからある沢山の出会いの中で、私以上に好きな人が』
「それはもう聞いたっての。なんで俺の気持ち、あんたが勝手に決めんだよ」
『…本当に私でいいの?』
「あんたがいいの」
この情けないくらい暴れている心臓の音は、彼に筒抜けだろう。でも、もうコントロールすることなどエリには不可能だ。
『アイドルが十歳も上の一般人を彼女に選んだなんて世間にバレたら、笑い者にされるかもよ?』
「怒られるよか笑われた方が全然よくない?人を笑う奴なんか無視するし」
『週刊誌にすっぱ抜かれて、地獄いきかも…』
「えりりんと行くんなら、べつに地獄でもどこだっていいよ」
『タマちゃんがここまで覚悟決めてるのに。私だけが、とっくに見えてる気持ちに蓋して色々理由付けて逃げ回ってるのはダサいよね』
「え!じゃあ…」
腕の中で大人しくしていた環は、飛び跳ねるように姿勢を正してエリの顔を至近距離から覗き込んだ。
『うん。これから、お付き合いよろしくお願いします』
「ヤ……、ヤッッターーーァ!!」
環歓喜の絶叫は、寮内全てに響き渡った。それすなわち、六人のメンバー達に吉報を知らせることとなったわけである。
『あは、はは…!もう、タマちゃん、いくらなんでも声が大き過ぎるよ』
「だって死ぬほど嬉しいん……。え?なんで、泣いてんの?」
言われてから、エリは自分の頬伝う雫に気が付いた。
『…あれ、なんでだろう。タマちゃんが、優しくて良い子…だからかな?』
「なんだそれ。てか、子供扱いすんなって言ってんのに」
環が、パーカーの袖を使って流れた涙と目元をぐしぐしと拭ってくれる。その優しさは、少し痛いくらいであった。
それから二人は、一つ残されていた王様プリンを半分こして食した。
プリンをこんなにも甘く感じたことはない。