第4章 四夜目.恋のかけら
—17小節目—
優しさの面影
環は目を閉じ、じっとする。目を閉じている間に感じる、エリの指先。肌の上を撫でる、くすぐったくて柔らかい感触を感じていた。
温かくて、心地良くて。次第に眠気が環を襲う。
しかし、カチャンカチャンと小さくガラスがぶつかる音が彼を一気に眠りから覚醒させた。カッと目を見開き、ぶんっと顔を音のした方に向ける。
『わっ、四葉さん、急に顔動かさないで!もう少しで目を突いちゃうところだったじゃ』
「はーい!アタシのカワイコちゃん達!現場の監督から差し入れ戴いたわよ!ここに置いとくから食べてね!た・だ・し、数がちょうどだから一人ひとつよ!」
「王様プリン!!」
環の叫び声にエリは目を大きくし、スタッフ達全員が口をぽかんと開ける。壮五は、両手で顔を覆って嘆くように俯いた。
「環くん、あの王様プリンはメイクさん達への差し入れだから…。僕達は、帰りに買って帰ろうね」
「……ぜったい?」
「うん。約束するよ」
「分かった…」
壮五が平和的に場を収めた為、部屋にはまた朗らかな雰囲気が戻る。しかし、環はぐったりと項垂れたままであった。あの白い箱に描かれたマークを見てしまったのだ。あの瓶同士がぶつかる音を聞いてしまったのだ。出来ることなら、今すぐに食べたかった。