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十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




—16小節目—
あの頃の話


まだIDOLiSH7の知名度が低く、四葉環と言えばMEZZO"の四葉環。これは、世間からそう捉えられていた頃の話だ。


『四葉さん、こんにちは。こっちどうぞ座ってください』

「うーす」


出逢って間もない彼女のことを、環はギリギリ認知していた。名前は定かでないが、よく自分のセットアップをしてくれる女の人。その程度の認識であった。
この時の彼の頭の中は、早く有名になりたい。理を見つけ出したい。その二つがほとんどを占めていた。だから、たまに会う彼女のことなど気にならなかったのだ。


『少しお肌が乾燥してますね。この前お願いしたことって、きちんとやってもらえてます?』

「お願いってなんだっけ」

『朝の洗顔後と、お風呂上がりの化粧水と乳液』

「忘れた」


環が言うと、エリは眉尻を下げて笑った。
あぁ、この顔って本当によく見るなと環は思う。大抵の大人が、彼を見る時にはこの困り笑いを浮かべているのだ。


「あの、すみません。今日の夜からは僕が気を付けて見ているので…!ほら、環くんも何か言って」

「ん?あー…。化粧水とか乳液とか、めんどっちい」

「環くん!」

「だって、そんなんやらなくたって困ったことねえし」


環がぶっきらに言うと、何かを考え込んでいたようなエリは悪戯な笑顔を浮かべ口を開く。


『ちょっと想像してもらっていいですか?
四葉さんは今、自宅のベットで目が覚めました。でも寝坊してしまって、喉が渇いたけど水も牛乳も飲まずに家を出ます。学校で何か飲もうと思っていたのになんと、水道が全部壊れていて水が出ないらしいのです』

「んじゃ自販機でジュース買う」

『四葉さんは、財布を忘れてしまったのでした』

「んじゃ誰かに120円貸してもらうわ」

『四葉少年には、友達が1人もいなかったのです』

「俺かわいそう!!」

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