第4章 四夜目.恋のかけら
—15小節目—
混み合う廊下
長い長い沈黙が続いた。その静寂がどれほどエリを緊張させているか、環は知る由もないだろう。
「え、と…。それって、言わなきゃダメ?」
彼のその言葉にエリの心を繋ぎ止める力がなかったことは、言うまでもないだろう。
『ううん、大丈夫。答えなくてもいいよ。もう』
なんとなく好き。年上の女が物珍しかった。なんか顔がタイプ。
そんな曖昧な理由で、共に身を滅ぼす可能性のあるリスクを負えるほど、エリは勝負人ではなかった。
過度な期待をしていたわけでもない。ただほんの一瞬でも、夢を見てしまった自分が情けなくなっただけ。
「えりりん…俺は」
『ごめん。今日はもう、帰るね』
「えっ、ちょ、待って!なあ!」
立ち上がったエリを引き止めようと伸ばした環の腕は、虚しくも空を切る。
視界が歪みそうになるのを必死で堪えながら、ドアノブを引いた。廊下には驚きの光景が広がっており、エリは思わず短い悲鳴をあげる。
なんとそこには、六人のメンバーが勢揃いしていたのだ。涙も乾いたエリは、じとっと湿った視線をリーダーに向ける。
『まさか盗み聞きですか』
「いやぁ、まさかまさか!ここからじゃ部屋の声なんか聞こえませんて」
な、イチ!と、大和は何故か一織に振る。
「どうして私に振るんです…。でも確かに、二階堂さんが言ったことは正しいですよ。なんなら検証してみてもいい」
エリより少し遅れて状況を把握した環は、一際大きな声を上げる。
「じゃあ皆んなして廊下で何やってたんだよ!」
「環くんのことが心配だったから、つい…」
そう言われてしまったら、さすがの環も口を噤むしかなかったようだ。