• テキストサイズ

十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




—15小節目—
混み合う廊下


長い長い沈黙が続いた。その静寂がどれほどエリを緊張させているか、環は知る由もないだろう。


「え、と…。それって、言わなきゃダメ?」


彼のその言葉にエリの心を繋ぎ止める力がなかったことは、言うまでもないだろう。


『ううん、大丈夫。答えなくてもいいよ。もう』


なんとなく好き。年上の女が物珍しかった。なんか顔がタイプ。
そんな曖昧な理由で、共に身を滅ぼす可能性のあるリスクを負えるほど、エリは勝負人ではなかった。

過度な期待をしていたわけでもない。ただほんの一瞬でも、夢を見てしまった自分が情けなくなっただけ。


「えりりん…俺は」

『ごめん。今日はもう、帰るね』

「えっ、ちょ、待って!なあ!」


立ち上がったエリを引き止めようと伸ばした環の腕は、虚しくも空を切る。
視界が歪みそうになるのを必死で堪えながら、ドアノブを引いた。廊下には驚きの光景が広がっており、エリは思わず短い悲鳴をあげる。

なんとそこには、六人のメンバーが勢揃いしていたのだ。涙も乾いたエリは、じとっと湿った視線をリーダーに向ける。


『まさか盗み聞きですか』

「いやぁ、まさかまさか!ここからじゃ部屋の声なんか聞こえませんて」


な、イチ!と、大和は何故か一織に振る。


「どうして私に振るんです…。でも確かに、二階堂さんが言ったことは正しいですよ。なんなら検証してみてもいい」


エリより少し遅れて状況を把握した環は、一際大きな声を上げる。


「じゃあ皆んなして廊下で何やってたんだよ!」

「環くんのことが心配だったから、つい…」


そう言われてしまったら、さすがの環も口を噤むしかなかったようだ。

/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp