第4章 四夜目.恋のかけら
彼の体をぎゅっと抱き締め返せば、環はより強い力を腕に込めた。あまりにも力任せにするものだから、息を吸うのが難しくなるほど。
と思えば、両肩を掴んで勢い良くエリの体を自分から引き剥がした。
「じゃあ、俺とえりりんは恋人同士になれるってことだよな!!」
彼には、もう少し女性の扱い方を知っていただかなければなるまい。こんなふうに荒くったく扱って良いものではないと、誰かが教えなければならないだろう。
『タ、タマちゃん、肩が痛いよ』
「あ、わりい!」
しかし。彼にそれを教えるのが本当に自分で良いのか、エリには分からなかった。
環は、これから沢山の人と出会い、色んなことを吸収して大人になっていく。それこそ、その過程で女性との付き合い方も学ぶだろう。
『……』
「えりりん?怒った?」
『タマちゃんは、まだ若いから…これから沢山の女の人と出逢うよ。今はまだ、運命の人に出逢ってないだけかもしれない。私よりも若くて、タマちゃんにお似合いの人が現れ』
環はエリの手を取り、言葉尻を攫う。
「俺は、あんた以外いらねえよ。もし、運命の人ってのがえりりんじゃないんなら、運命もいらない」
鋭くも無垢な視線に、エリの中の時が止まる。やがて、ゆっくりと瞳を伏せた。
若さとは、なんと愚かで美しいのだろう。しかしながら、エリにはそれが儚いものだと分かっている。
でも、こんなふうに真っ直ぐ求められてしまったら、その若さに付き合いたくなってしまうではないか。
『タマちゃん、あのね…。私、ずっとあなたに訊きたかった事があるの』
「うん」
この質問がいかに重要であるのかを、相手には悟られぬようにして慎重に言葉を紡ぐ。
『環くんは、どうして私のことをそこまで想ってくれるの?私の何が、そこまであなたを惹きつけたのかを教えて欲しい』