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十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




彼の体をぎゅっと抱き締め返せば、環はより強い力を腕に込めた。あまりにも力任せにするものだから、息を吸うのが難しくなるほど。
と思えば、両肩を掴んで勢い良くエリの体を自分から引き剥がした。


「じゃあ、俺とえりりんは恋人同士になれるってことだよな!!」


彼には、もう少し女性の扱い方を知っていただかなければなるまい。こんなふうに荒くったく扱って良いものではないと、誰かが教えなければならないだろう。


『タ、タマちゃん、肩が痛いよ』

「あ、わりい!」


しかし。彼にそれを教えるのが本当に自分で良いのか、エリには分からなかった。
環は、これから沢山の人と出会い、色んなことを吸収して大人になっていく。それこそ、その過程で女性との付き合い方も学ぶだろう。


『……』

「えりりん?怒った?」

『タマちゃんは、まだ若いから…これから沢山の女の人と出逢うよ。今はまだ、運命の人に出逢ってないだけかもしれない。私よりも若くて、タマちゃんにお似合いの人が現れ』


環はエリの手を取り、言葉尻を攫う。


「俺は、あんた以外いらねえよ。もし、運命の人ってのがえりりんじゃないんなら、運命もいらない」


鋭くも無垢な視線に、エリの中の時が止まる。やがて、ゆっくりと瞳を伏せた。

若さとは、なんと愚かで美しいのだろう。しかしながら、エリにはそれが儚いものだと分かっている。

でも、こんなふうに真っ直ぐ求められてしまったら、その若さに付き合いたくなってしまうではないか。


『タマちゃん、あのね…。私、ずっとあなたに訊きたかった事があるの』

「うん」


この質問がいかに重要であるのかを、相手には悟られぬようにして慎重に言葉を紡ぐ。


『環くんは、どうして私のことをそこまで想ってくれるの?私の何が、そこまであなたを惹きつけたのかを教えて欲しい』

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