第4章 四夜目.恋のかけら
結局、環は自分の分一人前だけのプリンを食べ終えてスプーンを置いた。
エリは、さきほどプリンと一緒に彼が持って来てくれたお茶に口を付ける。グラスをテーブルの上に戻すのとほぼ同じタイミングで、環が口を開く。
「今日は、いきなりあんなこと言ってごめん。びっくりした、よな」
『たしかにちょっと急だったから驚いた、かな』
「そんなに?俺の気持ち、えりりんにはもうとっくりバレてっと思ってたのに…」
『タマちゃんの気持ちは分かってたつもり。驚いたのは、距離の詰め方』
「…俺、間違った?」
エリは首を振る。遅かれ早かれ、この話し合いは必要だったのだ。ただ、もう少し猶予があるものだと思っていた。あと少し、環と笑い合っていられると思っていた。
でも。ただ、それだけだ。
『タマちゃんの気持ちは嬉しかったけど、ごめんね。私達、恋人にはなれない』
「……なんで」
環の悲痛な顔から、思わず目を逸らしそうになる。だが、エリは意識して真っ向から顔を合わせた。出来ることなら環のこんな顔を見たくはないが、これは振る側が負うせめてもの痛みであると思うから。
『なんでって…。タマちゃんはアイドルでしょう?』
「だから?アイドルだったら、恋人作っちゃいけないわけ?」
『それに私達、歳が十個も離れてる』
「意味、分かんねえ。俺はえりりんが四十歳でも五十歳でも好きになってたよ」
覚悟が揺れるようなことを言わないで欲しい。エリは簡単にグラつく心に鞭を打った。