第4章 四夜目.恋のかけら
—14小節目—
嘘のつけない場所
手土産はどうしようかなんて、迷いすらしなかった。だがさすがに瓶入りプリン十個は腕にくる。
インターホンを押せば、コンマ数秒で環が飛び出してきた。あまりの早さに驚きながらも、少し動かしただけでガチャガチャと鳴る手土産を渡す。
環は目を輝かせ、歯を見せ子供のようににかっと笑う。それは、エリが弱い笑顔であった。
寮には、ほぼ全員が揃っていた。彼らが自覚しているのか定かではないが、皆んな普段よりとっても笑顔であった。環は胸を張って何故か誇らし気であるし、エリは少しだけ座りが悪いと感じる。しかし、なんだかくすぐったいだけで決して嫌ではなかった。
そんな猛烈歓迎ムードの中心には、壮五もいた。今のこの状況は、彼が思い描いた通りのものなのだろう。見た目とは裏腹に、策士な一面があるらしい。そんな彼を、エリはむしろ好印象に捉えていた。
『あれ?思ってたより全然綺麗だ…っ』
「そ、そう?べつに、普通だし!!」
通された環の自室は、想像よりも遥かに片付いていた。もしかすると、エリが来ると決まって慌てて整えたのかもしれない。他のメンバーに手伝ってもらい掃除するシーンを勝手に想像して、彼女は口角を緩めた。
『王様プリン、食べないの?』
「んー…でも、これから大事な話すんのに」
『話をする前に食べればいいでしょ?それに、タマちゃんに食べて欲しくて買って来たんだから!』
「じゃあ食う!すぐ食う!」
『ふふ、うん』
環は言うなり、台所へと飛んで行った。そして、ものの数十秒で戻って来る。その手には、二つのプリンと二つの匙が握られていた。
そして、一組をエリに差し出す。
『私はいいよ。タマちゃんが、二つとも食べればいいから』
何か悪いことを言ってしまったのだろうか。環の綺麗な瞳が凛と揺れる。
『タマちゃん?』
「ごめん、なんでもない」
その力のない笑顔は、普段のそれとは大きく違う。
時折だが、彼がこういう顔で笑うことをエリは知っていた。
この顔をする時の環は、一体何に想いを馳せているのだろうか。