第4章 四夜目.恋のかけら
「もぅ!!バンちゃんたらアタシの気持ち分かってるくせに、そんなツレナイこと言うんだから!」
「誰だって急に尻を鷲掴まれたら、やめて下さいと言うと思うんですけど…」
「なによ!!減るもんじゃないんだからケチケチしな……」
現れたのは、万理とサクラであった。扉が開いたと同時にエリは立ち上がり、平静を装ったというのに。サクラの鼻は誤魔化せなかったらしい。
「…すん。すんすんっ。クンカクンカ…。
うん、あらぁ、まぁまぁ!臭うわ!臭うわよねバンチャン!!らぶぃニホヒが立ち込めているわぁ!」
「さぁ。私には何のことだかさっぱり」
「またまた!この甘ったるい空気感に気付かないアナタじゃないでしょうに。でも、そういうあっさりした態度もステキ…」
「はは。そこまで褒めてもらっては何か御礼をしたくなりますね。どうでしょう?珈琲を一杯、ご馳走させてもらえませんか?」
「〜〜っっ!?一杯と言わず、十杯でも百杯でもお付き合いますゼェ!!!」
「いや、本当に一杯だけで…」
環とエリに二人きりの空間を贈る為、体を張ったのだとすぐに察しが付いた。しかし、果たして今度は尻を鷲掴まれるくらいで済むだろうか。
心配顔を浮かべるエリに、万理は部屋を出る瞬間に微かな笑顔を残していった。
彼は一体何を思い、微笑を彼女に向けたのだろうか。
「なんだったんだろ」
『タマちゃん。私達、一度きちんと話をしようか』
まだ呼び慣れない渾名が、唇に違和感を残す。
「うん、話す。話したい!」
『そうなると、場所が問題だよね。レストラン…は個室だとしても周りの目が気になるし、私の家って訳にもいかないし』
「あ、じゃあさ!」