• テキストサイズ

十六夜の月【アイナナ短編集】

第1章 一夜目.5時限目の空




—6小節目—
鋭い観察者


「なーなー。いおりんってさ、えりりんのこと好きなん?」

「………急に何を言い出したかと思えば。一体どんな根拠があってそう感じたんです?見当違いも甚だしいですが、一応その理由は聞いて差し上げますよ。四葉さんはどうして、私が彼女のことを好きだなどと考えたんですか?」

「うわ、めっちゃ喋んじゃん」


取り乱しこそしなかったものの、これでは認めたも同然である。しかし、そこは相手が環だったことが功を奏した。エリへの気持ちは露見されずに済む。


「ふーん。じゃ、俺の勘違いだったわ。えりりんのことめっちゃ見てるなーとか、俺とえりりんが喋ってたら、いおりんなんか機嫌悪くなるなぁとか思ってたんだけど」

「全て気のせいなので、今すぐにそれらの記憶をあなたの脳内から葬り去ってもらえます?」

「んー、がんばってやってみる」


一織は、環の言葉を重く受け止めた。仮面を被るのは得意だと自負していたのに、まさかこうも透け透けだったとは。もしや、環以外のクラスメイトにも勘付かれているのだろうか。まったく恋とは恐ろしいものである。


『なになに、何の話?』

「おー。いおりんがえりりんのことを」

「四葉さん。今なら数学の課題を写させてあげても良いですよ」

「マジで!?やった!写す写す!!」


環は目を輝かせ、自分と一織のノートを隣同士に並べ開いた。数字の羅列を懸命に書き写す環の姿を見ながら、エリは苦笑まじりに告げる。


『課題は自分でやった方が良いと思うよ』

「んー…」

『もう。和泉くんも、あまり環を甘やかしたら駄目じゃない?』

「そう、ですね」


あの雨の日をきっかけに、一織とエリが話す機会は増えていた。これまでに比べると彼女の言葉数も増え、豊かな表情を見せてくれるようにもなった。
だが相変わらず、下の名前で呼ぶのは環のみである。

/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp