第4章 四夜目.恋のかけら
「で?お前はその人のどんなところに惚れたんだ?」
「ないしょ」
「なんだよ、教えてくれてもいいじゃねえか」
相変わらず楽しそうにしている二人を横目で見ながら、天は小さく息を吐いた。
「あの様子じゃ、周りが騒ぎ出すのも時間の問題だと思う。彼は純粋なぶん分かりやすいから。大変だね、逢坂壮五も」
「労いの御言葉、ありがとうございます。でも、僕に出来ることなんて限られてますけどね」
「冗談抜きで、気を付けて。最近、週刊文秋の過激派記者の動きが活発化し」
環達の楽しそうな声が、天の言葉に被さるように響いた。
「あははは!がっくんもう分かったって!」
「いや、何度だって言ってやる。周りに何言われようが、ぜってー逃すんじゃねえぞ」
「はぁ…。楽、もうこれ以上は余計なこと言わない。大体、彼女もいないキミのアドバイスなんてもらったって彼も困るよ」
「おい。嫌な言い方すんな。“今は” いないだけだ!」
「それ、モテない人の常套句だよね」
「誰がモテないって?もう一回言ってみろ。いいか?俺はちゃんとモテ……」
「自分で悩んでるじゃない」
「うっせーな!!ちょっと待ってろ。今とっておきのモテトークを思い出すから」
「そこまで本気で捻り出さないと思い当たる節がないの?可哀想…」
楽と天が言い合いになってしまったのを見て、環と壮五の二人は眉尻を下げて龍之介に視線を送った。
「あっ、気にしないで!これくらいの言い合いは二人にとって日常茶飯事だし、むしろ円滑なコミュニケーションの為に必要なものだから」
「円滑な…?」
「コミュニケーション、ですか…」
「そうそう!漫才の練習みたいなもんだよ!」
「「漫才なんかしてない!」」
「おおー、円滑なツッコミ」
息の揃った二人に、環は目を輝かせて手を叩く。
壮五はというと、さきほど天が言い掛けた言葉が頭の隅に引っかかったままになっていた。小指の先ほどの違和感が、彼の心に積もったのだった。