第4章 四夜目.恋のかけら
「俺らの出番、この後なんだけど」
『知ってるよー?出番の後に、メイクはしないからね』
エリは指先で、環の顎を軽く持ち上げる。シャドウの色をぼかしながら、愉快そうに息を漏らした。
「なるほど。たしかに。えりりん賢いじゃん」
『それほどでも』
「って。そーじゃなくて。
歌番の収録、観に来てくれる?俺が歌うの、聴きに来て」
彼女は、時計を確認する。頭の中でスケジュールを組み立てながら、リップクリームを取り出した。
『少しなら時間が作れるかもしれない。タイミングが合えば、見学に行かせてもらおうかな』
「ほんと?やりー。待ってっから」
壮五はべつの人間に髪をセットしてもらいながら、冷や冷やした心地でそんな隣の会話を聞いている。しかし他のスタッフ達の表情は温かで、微笑ましいなぁと感じているのは明らかであった。
やがて環と壮五、二人ともの準備が整う。壮五は世話になったスタッフ達に御礼を言いながらも、名残惜しそうにする環の腕を引いた。
少し離れた楽屋へ戻り、収録時間まで待機していると、本日の番組ADが二人の元を訪れた。
「すみません。今日Bスタとお伝えしてたと思うんですが、Cに変更になったのでよろしくお願いします」
「分かりました。時間等に変更はありませんか?」
「はい、時間はそのままで大丈夫です。では、失礼します」
「わざわざありがとうございました。それでは後ほど、よろしくお願いします」
そつがなく対応を終えた壮五。扉が閉まるのを確認してから後ろを振り返ると、環は携帯を手にメッセージを送っていた。
「えりりんに、Cスタんなったって送っとかねぇと」