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十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




—2小節目—
真っしぐら


「えりりんって、花好き?」

『好きだよ』

「どんな花が好き?」

『花ならなんでも』

「チューリップも?」

『春のお花だね。もちろん大好き』

「じゃあコレあげる」


環は後ろ手に持っていた、チューリップの花束をエリに差し出した。花束とはいっても、チューリップ二輪とかすみ草だけの可愛らしいもの。


『わぁ、可愛い!貰っちゃっていいの?』

「へへ、うん」

『嬉しいなぁ。ありがとう、環くん」

「あ、えーと…
全然いいんだよ。お前のその笑顔が…見られただけで、俺は幸せ者だぜ」

『うん?』


昨夜、大和から仕込まれた台詞を噛まないで伝えることに成功した。


「あのー。そろそろ、僕らも存在感出してって大丈夫?」


空気を読んで、気配を消してくれていた周りの人達。彼らはそのほとんどが、エリと同じ技術者である。
そう。ここは、スタイリストやメイクアップアーティスト、スタイリスト達が集う、メイク室だ。


「気を遣わせてしまってすみません!ほら環くん、そこに座らせてもらおう?中崎さん。本日もヘアセットとメイク、どうぞよろしくお願いします」

「お願いしまーす」

『ふふ。はい、任されました!』


こうしてメイク室で頭を下げる壮五を含め、環の露骨な態度など、皆んなとうに見慣れた光景となっていたのだった。

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