第1章 一夜目.5時限目の空
エリは赤かった顔をさらに赤くし目に涙を溜めて、一織に視線を送る。ぐっと自分を睨み付ける表情がまるで小動物みたいで、彼は密かに胸をときめかせた。それを悟られないよう、顔を横向けてエリに手を差し伸べる。
「というか、そろそろ立ち上がってください」
『はい…』
「あと、質問したいことがあるのですが答えてもらえます?」
『内容によります…』
エリと一織は、並んで歩き出す。申し合わせたわけでもないのに、その足取りはひどくゆっくりで。まるで、この時間がなるべく長く続けば良いと二人ともが願っているように。
「あなたは、IDOLiSH7が嫌いなのではなかったのですか?」
『えっ?そんなことない』
一織は “チケットいらない事件” の詳細を彼女に語って聞かせる。あまりに正確で細かく一織が説明するものだから、エリは少し驚いた。
『あぁ…その時のこと、覚えてる。でもそっか。そんな誤解を与えちゃってたんだ。ごめんね。私、言葉足らずだってよく言われるんだけどまたやっちゃったみたい』
「いえ。べつに、迷惑をかけられたとは思っていませんから。それよりも、四葉さんからチケットを受け取らなかった理由を教えてもらっても?」
『もうそのチケットを、持ってたから』
「え?」
『だから、あの時すでに私はチケットを買っていたの』
なるほど。そう返すだけで、精一杯だった。
エリが自腹で、ライブチケットを購入してくれていた。IDOLiSH7のことを好きでいてくれた。他の誰でもない、自分のことを推してくれていた。それだけで、一織の胸はいっぱいだったのだ。