第4章 四夜目.恋のかけら
また、ザザーと白と黒の砂嵐。それからすぐ、チャンネルを切り替えたみたいに場面が変わる。
この場面も、よく覚えている。俺の脳内にある、確かな記憶だ。
「ふわぁぁっ!王様プリンだぁ!」
理は、机の上に置かれたそれを見て歓喜のあまり飛び跳ねる。もちろん俺だって、大好物のプリンを目前に踊り出したい気持ちは山々であった。しかし幼少期より鋭かった俺は、またも気付いてしまったのだ。
「なんで2個しかないの?もしかして、売り切れてた?だったら、半分こしよ。俺、半分でも我慢出来る」
「違うのよ。売り切れでもなんでもなくて…。そう、今は甘い物が食べたい気分じゃないだけだから。だから、それは環と理の二人で食べていいの」
母親は言ってから、優しく目を細めた。そして温かくて柔らかい手を、俺の頭の上にそっと載せた。
「環は優しい子。優しくて、良い子ね。いつも気遣ってくれて、ありがとう」
へへっと、俺は得意気に笑ってからスプーンでプリンをつっついた。
「——よ…葉さん、…!四葉さん!もう、いい加減に起きてくださいよ!」
「………んぁ?いお、りん?」
「何度起こしに来たと思ってるんです?これで最後ですからね」
とっくに制服姿に着替えた一織が、眉をひそめて俺を見つめていた。そして、その険しい目付きのまま腕時計を見やる。
「ほら、早く準備してください。あと十五分したら私は出ますからね。
それにしても、物凄いヨダレのあとですね。どうせまた、王様プリンの夢でも見ていたんでしょう」
「おー、食い損ねたけどなあ」
「呆れた人だな…」
俺は優しくも、まして良い子なんかでも全然ない。
大好きだった母親の “嘘” も見抜けず
その “愛情” にも気付かなかった、薄情な男なのである。