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十六夜の月【アイナナ短編集】

第4章 四夜目.恋のかけら




また、ザザーと白と黒の砂嵐。それからすぐ、チャンネルを切り替えたみたいに場面が変わる。

この場面も、よく覚えている。俺の脳内にある、確かな記憶だ。


「ふわぁぁっ!王様プリンだぁ!」


理は、机の上に置かれたそれを見て歓喜のあまり飛び跳ねる。もちろん俺だって、大好物のプリンを目前に踊り出したい気持ちは山々であった。しかし幼少期より鋭かった俺は、またも気付いてしまったのだ。


「なんで2個しかないの?もしかして、売り切れてた?だったら、半分こしよ。俺、半分でも我慢出来る」

「違うのよ。売り切れでもなんでもなくて…。そう、今は甘い物が食べたい気分じゃないだけだから。だから、それは環と理の二人で食べていいの」


母親は言ってから、優しく目を細めた。そして温かくて柔らかい手を、俺の頭の上にそっと載せた。


「環は優しい子。優しくて、良い子ね。いつも気遣ってくれて、ありがとう」


へへっと、俺は得意気に笑ってからスプーンでプリンをつっついた。








「——よ…葉さん、…!四葉さん!もう、いい加減に起きてくださいよ!」

「………んぁ?いお、りん?」

「何度起こしに来たと思ってるんです?これで最後ですからね」


とっくに制服姿に着替えた一織が、眉をひそめて俺を見つめていた。そして、その険しい目付きのまま腕時計を見やる。


「ほら、早く準備してください。あと十五分したら私は出ますからね。
それにしても、物凄いヨダレのあとですね。どうせまた、王様プリンの夢でも見ていたんでしょう」

「おー、食い損ねたけどなあ」

「呆れた人だな…」


俺は優しくも、まして良い子なんかでも全然ない。

大好きだった母親の “嘘” も見抜けず
その “愛情” にも気付かなかった、薄情な男なのである。

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