第4章 四夜目.恋のかけら
—1小節目—
prologue
これって夢だなあって、夢の中で分かることがある。そんで、今がまさにそれ。なんで分かったかっていうと、めっちゃ幼い理と…もう居ないはずの母親が、目の前で笑っているからだ。
夜中のテレビを見てたら流れる、砂嵐みたいなのが現れた後に、場面が切り替わる。
あぁ。これは夢というよりも、昔の記憶だ。このシーンを、俺は知っている。
母親が台所に立って、俺達が大好きなミートボール入りスパゲティを作っている光景。背中側で結ばれたエプロンの蝶々結びが揺れるのを、俺はじっと見つめていて。理は机の前に正座し、今か今かと料理が出来上がるのをフォークを手にして待っていた。
やがて、三つの皿が目の前に並ぶ。
「わぁ!美味しそう!いただきまーす!」
「ふふ。召し上がれ」
俺も理に遅れて、いただきますをした。しかし、フォークに巻きつけたパスタを口に運ぶ手が止まる。母親の皿を見て、あることに気付いたのだ。
「なんで、ミートボール、俺と理の分しかねぇの?入れるの忘れた?俺の分、分けてあげる」
「ううん。入れ忘れたんじゃないから、環達は気にしないで食べなさい?ただ、お腹が空いてないだけだから」
ミートボールが入っていないのに加えて、麺の量も控えめであった。まだ幼かった俺は、それが母親の “優しい嘘” なのだと見抜くことが出来ないでいた。