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十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




再び二人きりとなった台所。テキパキと調理器具を用意する三月に、エリは声を掛ける。


『ごめんね、せっかくのお休みなのに…。いつも私の研究に付き合わせちゃって』

「なーに言ってんだ!そんなの気にする必要ねえから」

『気になるよ。三月は優しいから。私も、何かお返しがしたいな。何が出来るのか分からないけど…』


寂しそうな瞳で、そう呟いたエリ。三月はそんな彼女の両肩を掴み、しっかりと向き合った。


「あのな、エリ。お前がオレの為に何かしようとか、思う必要ないんだよ」

『……』

「どうしてか?って、顔してるな。その理由だけど、オレは…
ずっと前に、もうどうしようもないってぐらい、お前に救われたから」

『え?』

「完璧なものより、もっと尊いものがあるって。オレは、誰かの真似をしなくてもいい。オレはオレのままで、自分を好きでいていいんだって。教えてくれたのは、他でもないエリだったんだ」


真顔で全てを言い切ってから、三月はふいっと視線を逃して鼻頭をかく。


「と、とにかく、オレはものすごいデカイ借りがエリにあるってことだ!」

『いやいや!借りなんて!そもそも私、そんな大それたこと三月にした覚えな』

「しー。まぁ、そう言うなって。
その借りは、とにかく膨大でさ。オレはちょっとずつ、その借りを返すから。でも多分、あんまりデカイもんだから、返し切るには “一生” くらい…かかっちゃうかも」


エリは神妙な顔付きの三月を見て、ようやく彼が本当に伝えたいことを悟る。悟った瞬間に、目の前の男に飛び付いた。


『三月、大好き!ずっと、ずっと一緒に』

「ずっと一緒にいような。エリ」


三月はエリの言葉尻を奪って、微笑みたたえるその唇に軽いキスを落とした。

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