第3章 三夜目.トライアングラー
再び二人きりとなった台所。テキパキと調理器具を用意する三月に、エリは声を掛ける。
『ごめんね、せっかくのお休みなのに…。いつも私の研究に付き合わせちゃって』
「なーに言ってんだ!そんなの気にする必要ねえから」
『気になるよ。三月は優しいから。私も、何かお返しがしたいな。何が出来るのか分からないけど…』
寂しそうな瞳で、そう呟いたエリ。三月はそんな彼女の両肩を掴み、しっかりと向き合った。
「あのな、エリ。お前がオレの為に何かしようとか、思う必要ないんだよ」
『……』
「どうしてか?って、顔してるな。その理由だけど、オレは…
ずっと前に、もうどうしようもないってぐらい、お前に救われたから」
『え?』
「完璧なものより、もっと尊いものがあるって。オレは、誰かの真似をしなくてもいい。オレはオレのままで、自分を好きでいていいんだって。教えてくれたのは、他でもないエリだったんだ」
真顔で全てを言い切ってから、三月はふいっと視線を逃して鼻頭をかく。
「と、とにかく、オレはものすごいデカイ借りがエリにあるってことだ!」
『いやいや!借りなんて!そもそも私、そんな大それたこと三月にした覚えな』
「しー。まぁ、そう言うなって。
その借りは、とにかく膨大でさ。オレはちょっとずつ、その借りを返すから。でも多分、あんまりデカイもんだから、返し切るには “一生” くらい…かかっちゃうかも」
エリは神妙な顔付きの三月を見て、ようやく彼が本当に伝えたいことを悟る。悟った瞬間に、目の前の男に飛び付いた。
『三月、大好き!ずっと、ずっと一緒に』
「ずっと一緒にいような。エリ」
三月はエリの言葉尻を奪って、微笑みたたえるその唇に軽いキスを落とした。