第3章 三夜目.トライアングラー
—12小節目—
救われた日
「おや。エリちゃん、いらっさい」
『お邪魔してます、大和さん!』
大和が寮へと帰ると、エリと三月が並んで台所に立っていた。どうやら、これから何か一緒に作るらしい。
『あ!毎回同じ物で申し訳ないんですけど、お土産ありますよ』
「お土産?」
『はい!』
「おにぎり?」
『はい!』
「俵の?」
『はい!』
こんな笑顔で、こんなにも良い返事をされては、ありがとうと言う他ない。
「そっかぁ…。今日の中身は何かなぁ」
『ヨーグルトの佃煮です!』
「うーん。煮ちゃいかんでしょー、ヨーグルトは」
この分では、これから作ろうとしている物もきっとアブノーマルなのだろう。いや、三月との共作ということを鑑みれば、いつもよりは期待を持って良いはずだ。
大和は、恐る恐る訊いてみることにする。
「それで…今日はこれから、なに作んの?」
「『フォアグラ』」
「……さいですかー」
大和はもう、突っ込むことをやめた。
「エリ。エプロン、オレンジと青どっちがいい?」
『うーん、じゃあオレンジ!』
「こっちを選ぶとはお目が高い!さすがだな」
『へへー』
三月は、自分が普段使っているエプロンをエリに被せた。そして丁寧に蝶々結びを作っているところで、ニヤニヤ大和に突っ込まれる。
「おやぁ?お二人さん、なーんか雰囲気変わりました?もしかして…、あれぇ?ついに……」
二人の顔が、同時にボンと赤くなる。
「ははっ。初々しい反応ご馳走様。じゃ、邪魔者は退散しますか。エリちゃん、どーぞごゆっくり」