• テキストサイズ

十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




「いつも悪いな。PV撮影、今かなり佳境だからさ。片手で食える握り飯がすげえ助かる」

『御礼を言うのはこっちの方。TRIGGER様にはいつも御贔屓いただきまして。誠にありがとうございます』

「はは。いいよそんな他人行儀なのは。それより、お返しは何がいい?欲しいものはないか?後は、どっか行きたい場所とか。ほら、遠慮なく言えよ」

『楽は私を甘やかし過ぎ!商品の代金はきちんと貰ってるんだから。それで十分』

「相変わらずつれねえな。エリは」

『ふふ、そんなことないもん』


エリ。
三月の頭の中には、その名前だけがぐるぐる回る。知りたくて知りたくて仕方がなかった彼女の名前を、他の男の口から知ってしまったことに動揺を隠せなかった。

片目を細め、にっと口角を上げる楽。口元に手をやって、朗らかに笑うエリ。二人の距離は、ただの知り合いのものではない。三月の目の前は、真っ暗になった。


「龍も、エリはつれないと思うだろ?」

『私は普通ですよね?龍之介さん!』

「え?あはは。いやー、どうだろう。俺に分かるのは、楽がエリちゃんのことを溺愛してるってことだけかな」

「んな当たり前のことは訊いてねぇ」

『楽の愛は重いんですよ!』


親しげに会話する三人。その楽しそうな雰囲気とは裏腹に、三月は地獄に叩き落とされた心地だった。早くこの場から消え去りたい。何も知らなかったときの自分に戻りたい。彼は、震える足を一歩後ろに引いた。


「和泉三月?」

「く、九条…」


現れた天は、楽屋の前で固まっている三月を見て不思議そうに首を傾げた。

/ 249ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp