第3章 三夜目.トライアングラー
「いつも悪いな。PV撮影、今かなり佳境だからさ。片手で食える握り飯がすげえ助かる」
『御礼を言うのはこっちの方。TRIGGER様にはいつも御贔屓いただきまして。誠にありがとうございます』
「はは。いいよそんな他人行儀なのは。それより、お返しは何がいい?欲しいものはないか?後は、どっか行きたい場所とか。ほら、遠慮なく言えよ」
『楽は私を甘やかし過ぎ!商品の代金はきちんと貰ってるんだから。それで十分』
「相変わらずつれねえな。エリは」
『ふふ、そんなことないもん』
エリ。
三月の頭の中には、その名前だけがぐるぐる回る。知りたくて知りたくて仕方がなかった彼女の名前を、他の男の口から知ってしまったことに動揺を隠せなかった。
片目を細め、にっと口角を上げる楽。口元に手をやって、朗らかに笑うエリ。二人の距離は、ただの知り合いのものではない。三月の目の前は、真っ暗になった。
「龍も、エリはつれないと思うだろ?」
『私は普通ですよね?龍之介さん!』
「え?あはは。いやー、どうだろう。俺に分かるのは、楽がエリちゃんのことを溺愛してるってことだけかな」
「んな当たり前のことは訊いてねぇ」
『楽の愛は重いんですよ!』
親しげに会話する三人。その楽しそうな雰囲気とは裏腹に、三月は地獄に叩き落とされた心地だった。早くこの場から消え去りたい。何も知らなかったときの自分に戻りたい。彼は、震える足を一歩後ろに引いた。
「和泉三月?」
「く、九条…」
現れた天は、楽屋の前で固まっている三月を見て不思議そうに首を傾げた。