第3章 三夜目.トライアングラー
「挨拶に来てくれたの?でも今日は共演ってわけじゃないよね。とにかく、せっかく来たんだからそんな所にいないで中に入りなよ」
「い、いや!オレはもう」
時すでに遅し。エリ、楽、龍之介の合計六つの瞳は、入り口に立つ三月をしっかりと捉えていた。
「和泉の兄貴の方じゃねえか。久しぶりだな」
「お、おー!久し振り…!」
「三月くんも、今日はこの局でお仕事?俺達は撮影だったんだ!」
「十さん…!じ、実はそうなんですよね!ははは」
いつもと様子の違う三月に、天はすぐに違和感を持った。どうかしたのと質問する前に、エリが先に口を開く。
『こうやっておにぎりの配達に来てれば、もしかするといつか会えるかも。なんて思ってたんです。
会えましたね!和泉さん』
にこにこと三月に駆け寄るエリ。本来なら嬉しくて舞い上がってしまうシチュエーションも、この時ばかりは曖昧な答えを返すのが精一杯であった。
「じゃあオレはそろそろ…。お邪魔しました!」
『和泉、さん?』
「結局、彼は何しに来たの?」
「さぁ…。あ、差し入れでいっぱいもらったクッキー、持たせてあげればよかったなあ」
逃げるようにその場を後にしたせいで、背中に刺さる楽の鋭い視線に三月は気づく事ができなかった。
「ところで、今日もおにぎり持ってきてくれたの?」
『はい!自信作ですよー』
「へぇ、ありがとう。中身はなに?」
『今日は、スルメの蜂蜜漬けです!』
「…………そう」