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十六夜の月【アイナナ短編集】

第3章 三夜目.トライアングラー




「挨拶に来てくれたの?でも今日は共演ってわけじゃないよね。とにかく、せっかく来たんだからそんな所にいないで中に入りなよ」

「い、いや!オレはもう」


時すでに遅し。エリ、楽、龍之介の合計六つの瞳は、入り口に立つ三月をしっかりと捉えていた。


「和泉の兄貴の方じゃねえか。久しぶりだな」

「お、おー!久し振り…!」

「三月くんも、今日はこの局でお仕事?俺達は撮影だったんだ!」

「十さん…!じ、実はそうなんですよね!ははは」


いつもと様子の違う三月に、天はすぐに違和感を持った。どうかしたのと質問する前に、エリが先に口を開く。


『こうやっておにぎりの配達に来てれば、もしかするといつか会えるかも。なんて思ってたんです。
会えましたね!和泉さん』


にこにこと三月に駆け寄るエリ。本来なら嬉しくて舞い上がってしまうシチュエーションも、この時ばかりは曖昧な答えを返すのが精一杯であった。


「じゃあオレはそろそろ…。お邪魔しました!」

『和泉、さん?』

「結局、彼は何しに来たの?」

「さぁ…。あ、差し入れでいっぱいもらったクッキー、持たせてあげればよかったなあ」


逃げるようにその場を後にしたせいで、背中に刺さる楽の鋭い視線に三月は気づく事ができなかった。


「ところで、今日もおにぎり持ってきてくれたの?」

『はい!自信作ですよー』

「へぇ、ありがとう。中身はなに?」

『今日は、スルメの蜂蜜漬けです!』

「…………そう」

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