第1章 一夜目.5時限目の空
二人が行き会ったのは、二階と三階とを繋ぐ階段。先に相手の姿を見留めたのは一織の方であった。
気持ちいつもよりも肩を落として、ゆっくり階段を上がって来るエリ。踊り場辺りで人の気配を察し、顔を静かに持ち上げる。
一織を視界に入れた瞬間、彼女の大きな目はさらに大きくなった。
光を取り戻した空が、踊り場に輝きをもたらし彼女を照らす。濡れ髪から溢れた雫が、きらりエリの輪郭を滑った。
その光景に、一織は息を飲んでただ魅入ってしまう。
学校の階段で、ただのクラスメイトと顔を突き合わせただけだというのに、どうしてもこうも景色が眩しく見えるのか。この一帯だけ世界から切り離されて、スローモーションのようにゆっくりと時が進むのか。
目を閉じて、彼は自問する。
そして目を開いた時には、もう答えに行き着いていた。
「……」
(あぁ、そうか。私は…)
固まるエリの元へ、歩みを進める。一歩一歩と詰まる距離に比例して、不明瞭だった気持ちが晴れていく。どんどん自覚する。
彼女の目前に辿り着く頃には、もうその気持ちが自然の摂理であるとまで感じていた。
世界が違って見える。時の流れが遅く感じられる。それらがどうしてかなんて、分析など必要ない。理由など一つしかないから。
一織は、恋をしていたのだ。