第1章 一夜目.5時限目の空
—4小節目—
ドラマチックは雨模様
またべつの、金曜日5時限目。ついさっきまで笑っていたお天道様の御機嫌が、突如として悪くなる。ゴロゴロと唸り声を上げて、辺りに影をもたらした。
一織は窓の外に視線を投げながら、せめて後もう少し、泣き出すのは待ってくれと空に思う。
だがしかし、太陽はそれを聞き入れてくれなかった。文字通り、あっと言う間に空から大量の水が落ちてくる。教室まで届く、大き過ぎる雨音。生徒達だけでなく教師までもが、この時ばかりは窓の外に顔を向けた。この予報外れのスコールに、自分達が帰る際の心配をする。
しかし一織だけは、他人の身を案じていた。
数メートル先の視界は、豪雨で霞んでいる。グラウンドに現れた、いくつもの淀んだ色の水溜り。
あぁ。どうか彼女が、どこかで雨宿り出来ていればいい。
「!!」
その小さな願いも虚しく、彼の視界には一人の女の子。彼女は頭上に鞄を持ち上げて、傘代わりに雨の中を直走る。その姿を見た一織は、もはや反射で挙手していた。
「どうした?和泉」
「すみません。御手洗に行かせてもらっても良いでしょうか」
教師は、何の疑いも持たずに一織の退席を許した。
休み時間はいつも騒がしい廊下だが、今は教師の声だけが静かに響いている。違和感があった。授業中に一人で廊下を歩くなど、一織にとっては初めての経験だったから。
エリを迎えに行ったところで、自分に何が出来るのだろう。せいぜい、教室を出る際に持ち出したタオルを手渡してやれるくらいだ。大して仲良くもないクラスメイトに出迎えられて、驚かせてしまう可能性のほうが高い。しかし、それでも。
この寒い季節。冷たい雨に体を濡らすエリの姿を想像すればするほど、一織の脚は独りでに早さを増すのであった。