第3章 三夜目.トライアングラー
—4小節目—
スピード命
「バレバレだから」
三月はテーブルの上に “中崎屋” と書かれた袋をどさりと置いて言い放った。ちなみにこの袋の中身は、当然ながら俵おにぎりで満ちている。
「な、なんのことですか?ワタシには、ミツキの言葉の意味がさっぱりです」
「六弥さんが計画しました」
「ナギっちが尾行しよって言った」
「六弥探偵事務所は、今日この時を持ちまして営業停止とします」
即座にナギを売った高校生二人。さすがの三月も、同情の色を隠せない。
「それで…さ。どうだった?」
「どうだった、って。なにが?」
「いやだから、見たんだろ。か、彼女のこと。どう思った!?」
「兄さんが、めちゃくちゃ満更でもない顔をしている…!」
ナギは、おそらく三月が期待している通りの答えを並べてみせる。
「とってもキュートな女性でしたね。ミツキにとてもお似合いだと思います!」
「は、はは!ちょ、ナギ!お似合いとか、気が早すぎるっての!!」
バッシィ!と、三月がナギの背中を叩く。それはナギが耐え得る衝撃をとうに超えており、彼は大きく前につんのめった。
「兄さんが、めちゃくちゃ緩み切った顔をしている…!」
一織は一織で、見慣れない兄の表情の連続に戸惑っていた。はたまた環は、カップラーメンの在庫を確認しにキッチン棚をまさぐっている。
「くぅ…!ワタシの背中には、今ごろ立派な紅葉が姿を現していることでしょう。ですがそれよりも、今はもっと彼女について聞かせてください。
ミツキ、アナタのエンジェルのお名前は、なんと仰るのですか?」
「……そりゃ、お前…。中崎屋さん、なんだから…中崎さんだろ」
ナギは、口をぽかんと開けた。一織も正気を取り戻し三月を見たし、環もラーメン捜索の手を止めた。