第3章 三夜目.トライアングラー
「それで……。どうして私まで、この場に駆り出されなくてはならないのですか?」
「今日来れなかった、りっくんの代わり。てか、いおりんが一番関係あるかも」
「Shhh…!二人とも、声を抑えて…!」
一織は、支給された変装道具のハットを見つめながら溜め息を吐いた。環は、マスクのゴムを気にしながらも目線では三月の背中を追っていた。ナギは黒いサングラスのブリッジを持ち上げ、二人を先導する。
「兄さんの後を尾けようだなんて、悪趣味ですよ。それにわざわざ局から尾けなくても目的地が分かっているんですから、そのおにぎり屋の前で兄さんを待ち構えていればいいじゃないですか」
「なんだよ、冷めること言うなって」
「タマキの言う通りです。せっかくの探偵気分を台無しにしないでください」
「楽しんでるだけじゃないですか」
三月から付かず離れずを保ちつつ、三人は徐々におにぎり屋への道を進んでいた。
一織はまだこの尾行に納得がいっていないのか、他の二人に比べて足取りは重い。
「大体、私に一番関係があるってどういう意味なんですか」
「そりゃ…もしかすっと将来、いおりんの姉貴になるかもしんないじゃん。気になんねーの?」
長い長い沈黙が続く。やがて、一織はハットを深くかぶり直して前を見据えた。
「あなたの突飛な発想は置いておいて。たまには、美味しい方のおにぎりを食べたいですからね。買って帰りましょう」
「無事にイオリが狢(むじな)となり、ワタシ達と同じ穴に入ったところで…
いよいよ、ゴール地点が見えてきましたよ」
ナギは、おにぎり屋に入る三月の背中を指差した。