第3章 三夜目.トライアングラー
—2小節目—
被害者の集い
それが、まさに運命と呼べる邂逅であったのかは分からない。だが、少なくとも三月はその出逢いをそう捉えていた。
アイドルは、恋愛するべからず。という考えもあるだろうが、彼の所属する事務所も仲間も、そんな鎖で三月を縛り付けるようなことはしない。恋に落ちて間もない本人もまた、公私の区別をしっかり付けられる部類の人間。プライベートの浮き沈みを、仕事に持ち込むようなことはしなかった。むしろ、私生活が充実することで仕事にも張りが出ているくらいである。
そんなある日のこと。三月は、陽気な鼻歌と共に寮へと帰宅する。御機嫌な彼を、浮かない表情で見つめるのは三人の男達。既に缶ビール三本目に突入せんとしている大和。腹の虫を何度も鳴かせている環。ルンルンな三月に釣られて何故かご機嫌になる陸。この三人が三月の帰りを出迎えた。
「げぇ!」
カエルを潰したみたいな声を上げたのは、最も強く三月の帰りを待ち侘びていた環である。そのブルーの瞳に映すのは、三月が手にしていたビニール袋。中身を確認せずとも、三人には何が入っているのか分かっていた。
「またそれかよ…!もうあの店のおにぎりは買ってこないでって言ったじゃん」
「残念ながら、そうはいかないんだ」
「なんで」
「このおにぎりはな…。オレが買わなきゃ、最後まで売れ残って捨てられちまう運命だからだよ!」
「マズイからじゃん!マズイから売れ残ってんじゃん!!頼むからもう買ってくんなってー!」
不味い不味いと絶叫する環。三月は必死の形相で、不味くねぇよ!と対抗した。