第3章 三夜目.トライアングラー
『た、たしかに三角形の方もピシッとして綺麗かもしれませんけど、俵だって味は他と同じ一級品ですし!それに、華がなくたって…パッと人目を引けなくたって、私は…
三角形より、俵型の方が好きなんです!』
「!!」
彼女からその言葉を貰った瞬間。麻痺していた心が、元の形を取り戻したような気がした。
自分のことを悪く言われて、傷付かない人間などいるはずがない。
自分が胸を張ってやっていることを、理解してくれなくても良いなんて、諦められるはずがないのだ。
アイドルとして、自分が他より劣っているかもなんて。そんなこと考えるのは無駄だ。憧れる存在の隣に並びたいと思うのなら、オレにしかない武器を磨けば良いだけの話。
「コレ、…全……さい」
『え?』
「この、俵型の奴!全部ください!」
その考えに行き着いてさえしまえば、このおにぎりだって、さきほどまでとは違って見えてくる。
『ほんとですか!わぁっ、ありがとうございます!すぐにお包みしますね!』
「っう……!?」
オレは、突如として胸に走った痛みに耐え切れず声を漏らした。彼女の光るような満面の笑みを目の当たりにした瞬間、心臓が跳ねたのだ。
憧れのアイドルのライブに初めて行った時とも違う、仕事で大成功を収めた時とも違う、心を鷲掴みにされて揺さぶられるようなこの感覚。
それをどんな名で呼べば良いか分からない、なんて言うほどオレは子供ではなかった。