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【呪術廻戦】致死量の呪縛

第4章 水魚之交


あまりの気恥ずかしさを感じて逃げようとすれば、それを許さないと言わんばかりに力強く後頭部を押さえ込まれた。反射的に胸板を押し返そうと試みたが、男の身体の重みに抵抗は無駄なのだと察して、思わず身体が震え上がる。男に支配される感覚。酩酊感の中に、禁忌を犯しているかの様な背徳を覚える。それは男を知らない美代の劣情を煽るには充分なものだった。意識が、宿儺と同じ所に堕ちていくのを感じる。

「ん……ッ、」

やがて、ただ唇を重ね合わせるだけには止どまらず、熱を孕んだ吐息が吹き込まれ、同時にぬるりとしたものが美代の口内を侵した。突然のことに驚く暇さえ与えぬように、それは満遍なく美代の口腔を蹂躙していく。前歯をなぞり、上顎を舐り、奥へと潜り込んでは、硬着する美代の舌に絡み付いた。
 息が苦しかった。このままでは生気まで吸い尽くされて、死んでしまうような気がする。

(これは、夢だ______。こんなの、現実じゃない)

唇の柔らかさも、濡れた舌の蠢きも、感触も、何もかもが未知だった美代は忘我の境に誘われる。これが、現実だとは到底思えないのだ。

「……くる、し」

唇の隙間で声を漏らすと、宿儺は楽しげに口角を上げた。「愛いな」と満足気に溢すと、再び唇を奪われる。混じり合う唾液が、堪らなく美味しい。こんな風に感じてしまうのは、あまりに獣染みていると自身でも自覚はあるが、宿儺の身体も、伝染する熱も、愛欲も何もかもが美味しかった。

「男には慣れていないのか」
「……うん」
「良い良い、他の誰にも触らせてはならんぞ」

脅しを含んだ様な、冷たい声だった。それは、愛から訪れる嫉妬や執着とは少しばかり違う。所有物を独占したいという強い支配欲と言った方が正しい気がした。
 ああ、それでも全身が熱い。
 愛などという鎖ではきっと縛れないだろうと、美代はどこかで予感していた。それ以上の存在だ。互いが、互いに一つの何かに形を変える様に共存している。寧ろ、そうでないと、心臓の機能を止められると思った。
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