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【呪術廻戦】致死量の呪縛

第4章 水魚之交


 残酷な光景が蘇り、激しい吐き気に襲われる。胃やその他の機能する器官から足裏まで伝導するように、悪心が胃酸と共に何度も喉元まで迫り上がっては、嘔吐するまでには至らせてくれない。いっそ、穢れてしまった汚いものを全て吐き出せてしまえたら、どれだけ心地が良いだろうか。しかし、食事をしていなかった美代の胃から送り出されるのは、やはり酸だけである。
その間男は無言で美代の背を優しく摩ってくれた。表情は見えなかったが、何かを決意するように力強く拳を握る姿が目に映った。

「ごめ……なさい……っ」

嗚咽を洩らしながら床に顔を擦り付ける。美代は過ちを詫びていた。取り返しの付かないことを遂にしてしまった。けれど、それは美代自身でありながら、美代の意思で行った訳では無いもの。
誰に許しを乞えばいいのか分からなかった美代は、ただひたすらに首を垂れることしか出来なかった。しかし、勝手に体が動いただけであって、美代はどうして自分が謝罪を繰り返し、涙を流しているかなど考えられなくなってしまっていたのだ。
自分が、自分の意思を背くように神経に命令を下すようになったのは、一体いつからだっただろうか。
人間としての機能も感応も、いつしか美代の中で衰退し始めていた。それは、本当に気づかぬ間に、知らない内に。ひしひしと何かに蝕まれて去くのも感じられぬ隙に。




* * *




「______それで、この生活は慣れた?」

「……いえ、慣れません」

用意された部屋で生きるようになり、何日かが経過した。とは言うものの、収監されていると言った方が正しいような気もする。決められた時間にバランスの考えられた食事を摂り、決められた時間に就寝。外出は基本的に付き添いがいないと禁止されている。間違いなく、囚人そのものであった。
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