第3章 飛んで火に入る夏の虫
虎杖は優しかった。もしかしたら、今まで出会って来た中でも一番邪の心を見出せない人間の様にも思える。共に在ると自身の過去の行いが悪の様に感じてならなかった。このまま浄化されてしまえば、どれだけ良いだろうか。美代は彼と出会ってから、そんなことばかり考えていた。
しかし、人の死を見て見ぬふりをしてきた美代は、相応の罰を受けなくてはならないと感じていた。正にそれが今ではないか、とすら思う。
ここ最近、美代は誰かに跡をつけられていた。そう感じるようになったのは、高校生になって数ヶ月が過ぎた頃だった。虎杖と共に帰宅し道を別れた後、決まって放課後の薄暗くなった空の下。人間の気配と、美代に迫り来る微かな足音。
最初こそ気の所為だと自分に言い聞かせてきたが、やはり毎日続くとなるとそういう訳にもいかなくなり、美代は逃げる様にして更に足を早めた。
これが罰ならば、なんて恐ろしいことか。美代は相も変わらず宿儺に助けを求めることしか出来ずにいた。
「宿儺、私、誰かに付けられてるよね?」
「お前も随分と厄介な男に目をつけられたな」
宿儺に小声で声をかけると、まるで全て分かっているとでも言うような返事が返ってきた。