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【呪術廻戦】致死量の呪縛

第3章 飛んで火に入る夏の虫


「あっ、もうこんな時間……?!」

ふと時計に目を遣ると、既に八時を過ぎていた。今日から美代は高校生になる。だからと言って、何一つ変わる日常などはないが、やはりどこか落ち着かずにソワソワとしていた。新しい制服の匂い、新しい鞄の匂い。そこに、やはり不気味な箱を押し込んで。

「行ってきます」と残して、慌ただしく家を飛び出した。両親の返事はなかった。物心つく頃から両親に無視されてきたことが何度もあるので、慣れてはならないことであるはずなのに、美代はいつしかそれが普通だと思うようになっていた。きっと、両親は入学式にも来ないのだろう。だが、それならそれでいい。美代には宿儺さえいればいいのだ。それ以外何も必要ない。寂しさを埋めてくれるのも、絶対に傍から離れないと確信があるのも、彼だけなのだから。

外に出ると、ぽつぽつ、と針のような細かい雨が降っていた。傘を差すには大袈裟に感じるような小降りだったので、美代は傘を差さずに家を出る。どこか落ち着かない気持ちを抱えていたので、冷たい雨を浴びると冷静さを取り戻せるような気がして心地が良かった。

家から離れ、人気が無いのを確認すると、美代は「宿儺」と鞄の中にいるであろう彼の名を呼んだ。

「小娘。お前が浮かれているせいか、随分と揺れる。気分が悪い」

「宿儺、」

「なんだ」

美代の表情は、雨空と同じように曇っていた。今朝、良くない夢を見てからだろうか。美代の中に一つの蟠りが浮かんでいたのだ。

「どうして、夢の中で助けてくれなかったの?」

「お前の夢の中に俺は入れん。当然だろう」

「……でも、宿儺の、気配がした」

宿儺は意味ありげにほう、と溢した。やはり彼は何かを知っている。美代はそう確信すると同時に、胸の辺りが締め付けられるのを感じた。
自身の口から溢れ落ちた言葉に、自分でも訳が分からずに戸惑っていると、背後から「待って、」と誰かに突然声をかけられた。それは、聞き慣れた男の低音とは違い、聞き覚えのない青年の声だった。
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