Lunatic Fortuna…進撃の巨人リヴァイ溺愛
第37章 エゴイスト■
「カイルそれ…いつまで握ってんの。早く兵長に返せよ」
カイルはまだ自分がナイフを持っていたことに気付き、震える手でそれを見つめた。
ピカピカとよく磨かれていて光るその刃には、自分の血がついている。
下に向けられた切っ先からそれがポタポタと床に落ちていて、急いでハンカチでそれを拭った。
リヴァイはそのナイフを冷たく見下ろしたまま、返せとも寄越せとも何も言わない。
「早くそれを兵長に渡せよ…俺は別に殺されてもいい」
「何を言ってるんだ…ダメだそんなのっ」
突然クラムがナイフをひったくった。
その拍子にクラムの手が切れて血が飛び散る。
カイルの唇がわなわなと震え出す。
「クラム…何をする気だ、それを寄越せ」
「来るな」
近付こうとしたカイルにナイフを突きつけて静かにそう言った。
クラムはまるで生気がない人形のように真顔だ。
見たこともないそんなクラムの表情に、カイルはゾクッと寒気がする。
「俺はもう満足だ。ルーナさんを沈めてあげることもできたし、リヴァイ兵長に言いたかったことも全部言えたしな。俺は間違ってなかった」
そう言ってクラムは両手で切っ先を自分の腹に向けた。
「お…い…やめろ…」
「おいガキ、それは俺の仕事だ」
「あなたに殺られるくらいなら自分で殺りますよ。
メリッサだってある意味自死したようなもんだ。俺だってこのくらいのこと怖くもなんともない」
「よ…よせ…クラム…お願いだ…」
カイルが声を震わせながら1歩ずつ近づく。
「カイル、ありがとな。今までお前には世話になったないろいろと。でも…最期に一つだけいいか?」
「・・・は?」
カイルが顔を強ばらせながら動きを止める。
「俺は昔、サラが好きだったんだ。結構いい感じになってたけど、結局お前に奪われたな……考えてみたら俺の人生って、いつもなにかを奪われるだけの人生…だったかも」
カイルの目が大きく見開かれたのと同時に、クラムはナイフを振りかざし自分の腹に刺した。
一瞬のことだったのに
それがなぜかスローモーションのように見えるほど
吹き飛ぶ血液が空中をゆっくりと舞った。