Lunatic Fortuna…進撃の巨人リヴァイ溺愛
第53章 板挟み
お付きの執事が斜め後ろにいるにも関わらず、カサンドラはリヴァイに手を伸ばしてきた。
今すぐ背を向け歩き出したいところだが、ルーナの言葉が脳裏に蘇り、毎回邪魔をしてくる。
リヴァイは感情を押し殺してゆっくりとその手を取り、しゃがみこんで片膝をついた。
不機嫌そのものの表情だけは直せない。
そしてそのまま手の甲に軽く唇を付ける。
柔らかく小さなか細い手。
数秒間、そうしてキスをすれば、満足したように手を握り返されリヴァイはようやく立ち上がった。
「ふふっ…また伺いますわね。あ、それからこれ、よろしかったら皆さんでどうぞ。」
カサンドラが執事に目配せすると、執事の男は朗らかな笑みを浮かべながらリヴァイに大きな紙袋を渡した。
仏頂面のままおもむろにそれを受け取る。
毎回こうして何かを差し入れてくるのだ。
「……どうも…」
ため息混じりの呆れ声でそれだけ言う。
カサンドラは嬉しそうに上品に笑うとリヴァイを美しく輝く翡翠眼で見つめながら優しく言った。
「わたくし、いつでもあなた様が遊びに来てくださることを心待ちにしておりますわ。」
「…何度も言うが、そんな暇はない」
「あら、夜のほんの一時だけでもよろしいんですのよ?見返りを求めているわけではないですけれど、わたくしかなりこちらに尽くしてきたと思いますわ。少しくらい、わたくしにもご褒美があっても…」
そうでしょう?と言うように目を細めるカサンドラに、リヴァイも鋭く目を細める。
それを見返りっつうんだろうが…
「ふふ…まだまだあなたとお喋りを楽しみたいのですけれど、お仕事のお邪魔はしたくはありませんので、これで失礼させていただきますわ。ごきげんよう。リヴァイ様。」
艶めかしく片方のドレスをつまんで会釈し、執事の男と共に馬車に乗り込んで行った。
ルーナの言いつけ通り、馬車が見えなくなるまでその背を見送る。
そして盛大に舌打ちをしながら禍々しいオーラで兵舎に戻って行った。