第1章 1
「あぁ!カノンちゃんゴメンね!俺ァもしかして傷付けること言っちゃったかい!?」
『え!?いや、全然!大丈夫ですよ!!』
申し訳なさそうに繁咲さんが謝ってきた。
繁咲さんが悪気なく言った事は分かっている。
格好良いなんてもう耳にタコができる程、言われてきた。
父には悪いが私は本当に父に似ていると思う。
私が性別さえ間違えなければモッテモテの人生を送れたのは間違いない。
父は表情筋が寝ているのか全く関係表情が動かないが、世間一般で言う美男だ。娘の私が見ても格好良いと思う。
本当に表情筋が動かないのが残念だ。
その点、私は表情筋が動く方だと思う。
友達からは「クールだよね」と言われる事が多いけど、父よりは動く方だと思う。
「それじゃあ繁咲さん、私はこれで」
「じゃあ、おじさんもお暇しようかな」
父が挨拶をしてコートを羽織ってカウンターから出ていくと、繁咲さんもお金をピッタリ置いて立ち上がった。
『いってらっしゃい。お母さんに夜メールするって伝えて』
「わかった。」
「またね、カノンちゃん」
そう言うと2人はお店から出ていき、さっきまでの賑やかさは嘘のように店内は無音になった。
夜の準備をするにはまだ少しだけ時間がある。
少し本でも読もうかな。
鞄から読み掛けの本を持ってきて、簡易の椅子を持ってきて本を読み始めた。
本に集中して物語の世界へ入っていると、突然、目に違和感がはしった。
瞬時にコンタクトに埃が着いたのがわかって、睫毛に引っかかってないかなぁ〜と引っ張るもたぶん、べったりとコンタクトに着いてしまったのだろう。
一度コンタクトを外すしかない。
コンタクトを外して、装着液にもなる目薬でコンタクトを洗い、埃を取って目に装着する。
また目薬が眠気防止のためにクールタイプを選んでいるから装着した瞬間の爽快さに目がツーンとやられてしまい、目が赤くなりポロポロと涙が出てきた。
『ひーっ、染みる〜。』
と言いつつも目を慣らすために両眼に目薬をポタポタと垂らして装着時の違和感を無くしていると
お店のベルが軽快に鳴り出した。
お客さんだと、慌てて目を拭き、表を向くとあの時の記憶が瞬時に蘇った。
雪のやからが目の前に立っていた。