第1章 1
あの時の出会いをすっかり忘れた頃、部活はやっていないのでそのままお店へと向かう。
晴れていても冬の午後は日が陰るのも早く、冬の冷たい風は制服のスカートからのびる脚をチクチクと攻撃してくる。
(うぅぅ〜寒過ぎる。早くお店着け着け〜)
皮膚の感覚が段々となくなって、もう限界って所でお店に着いた。
急いでドアを開けるとドアに付いてるベルがいつもより乱暴に音を鳴らした。
「おかえり」
「おかえり カノンちゃん」
カウンターから父と常連のお客さんが声を掛けてくれた。
『ただいま。こんにちは繁咲さん』
「外、寒かったか?」
『うん、すっごく寒かった!』
「母さんの所に行くけど、お店お願いしても良いか?」
『もちろん』
カウンター横からお店の内へ入っていき、父と話しながら荷物を置く。身なりを整えて...っても、髪の毛をさっと手ぐして整えて制服の上からエプロンを付けるだけ。ものの数分で完成。
「19時には戻るから」
『うん、気を付けて行ってきてね』
準備を終えて、カウンターに出てくると父が今度は準備を始めた。
「 カノンちゃん、お店の手伝いばっかりで部活とか大丈夫なのかい?」
『うん、別に部活やってないから。それにお店の方が楽しいし』
父が準備をしてる横で繁咲さんと向かい合って話をしてた。
「 そっかー、勿体ないなぁー。カノンちゃんが運動部だったらきっとモテたろうに。お父さんに似て格好良いもんなー」
『あはは』
「似てないですよ」
繁咲さんとの会話に返事が困って、笑いながら食材の準備を始めてると横から静かに父が間に割って入った。
「似てないです。カノンは母親に似て美人です。料理も上手く気遣いもできて、本当に良い娘に育ってくれて俺は本当に助かってます。」
準備の終わった父がエプロンを畳みながら静かに繁咲さんに言った。
父は昔から言葉数が少なく、表情もあまり変わらないし背が大きいから人から「冷たい」とか「怖い」とか言われる事が多いが私は父の言葉が少なくてもこうやって真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるところが好きだ。