第4章 4
「てか、カノンちゃんもさっきの笑顔なに?笑えないのに笑ってさ、気色悪ぃ」
『...な、そんな事、あなたに言われる筋合いない』
「靴屋でもそうだよ。俺が可愛いって褒めたらすぐ逃げるし、手袋だって気に入ってた癖にさっさと外して逃げるし」
『...』
「前に自分がデカいし、強いし、我慢しなきゃいけないって言ってだけどさ...それって誰の為なの?他人の為?自分の為たろ」
「みんなの「王子様」を盾にして自分の「女の子」が恥ずかしくて隠してんだろ。」
『...帰ります。』
そうだ、そうだよ。
五条さんが言うことは正解。図星。
だからこそ、返す言葉がなくて『うるせぇ、馬鹿。』位しか返せなくて。
でもそんな事、絶対に言えなくて荷物をまとめて足早にお店を出て行った。
お店を出てからは全力ダッシュで、早くお店から自分が見えなくなるように何も考えずに走り続けた。
あの手袋だって本当は可愛かった。
雑貨屋で見つけたぬいぐるみも服屋で見たスカートもワンピースも靴屋で履いたパンプスも全部、可愛かった。
だけど、みんなから「カッコイイ」って言われてる自分がこれを履くのも着るのも持ってるのもおかしいんじゃないかって、可愛いって思っても自分の中で言われる「カッコイイ」や「王子」が邪魔をして勇気が持てなかった。
きっと私がこれを着たらみんな変な目で私を見るんじゃないかって怖くなって、だから五条さんが「お姫様みたいだね」って言ってくれたのも素直に受け止められなかった。きっとからかってるんだろう。「男みたいなのに似合わねぇ」って内心思ってるんだろうって...それなら「カッコイイ王子」でいれば良いんだって、このまま興味を持たない。みんなの理想通りの私で居れば良いって思ってた。
あんなに憧れてたお姫様に自分から逃げ出して、背景になるのを選んだのは私だったんだって、思い知らされて、反論できなくて、悔しくて...
ずっと、ずっと、走り続けた。