第3章 3
何に腹が立つって、俺が名前を聞いても素直に教えてくれない。送って行く時といつまでも渋る。なのに傑にはすぐに名前を教えるし、送る時も素直に受け取って、連絡先まで交換して...もしかしたら、笑顔まで見せたのかなって思ったらめちゃくちゃ腹が立って、自分の気持ちをコントロール出来ない自分が余りに滑稽で、少しずつ怒りが収まってきた。
「悟、大丈夫か?」
「なにが?」
「いや、急に大人しくなったから」
「別に、部屋に戻るわ。おやすみ」
俺が大人しくなった事に傑が声を掛けてくれたが、荒ぶってた気持ちが急激に冷え切ると俺も口数が減ってしまい、そこからはお互い何も言わず俺も自室に戻った。
自室に戻ると誰かが暖房機を付けてくれてる訳では無いので足の裏からダイレクトに冷えきった部屋の温度を感じ、暗い部屋にカーテンの隙間から少し入ってくる月夜の明かりが更に部屋の冷たさを視覚的にも伝えてきた。
ブーッブーッ
机の上に置きっぱなしにしてた携帯がマナーモードのまま突然、揺れだした。小さな液晶パネルには着信を知らせるアイコンと知らない番号。
いつもなら出ないのに今日の俺はおかしい。
自分の感情がコントロールできないし、感情が冷めきったかと思えば知らない電話には出ちゃうし。本当におかしいんだ。
「はい」
『夜分遅くにすみません。武笠ですけど夏油さんですか?』
まさか自分の耳に届いた声が先程まで自分の気持ちを揺さぶっていたやつの声だとは思わず、答えられずに黙ってしまった。
『あの、五条さんのサプライズの件ですが』
「うん」
『?ぇっと、私サプライズも良いと思うんですが、どうしてもその前に五条さんに直接お祝いの言葉を伝えたいんです。』
「うん」
『五条さんには少しお世話になった事もあるのでお礼も兼ねてお祝い事は直接伝えた方が良いと思うので』
「うん」
『なので、今日の分のお支払いは後日お返しします。あと、私事で申し訳ないのですが五条さんの連絡先を教えて下さい。』