第13章 11
「カノン」
夏油さんは私のことを名前で呼ばないのに
突然、名前を呼ばれた事に驚いてしまった。
「どうしてほしい?」
『えっ...と』
「友達が戻ってこなくて心配なんでしょ?」
『は、はい』
「じゃあ、私にどうしてほしい?」
難しい。
なんでそんなことを聞くんだろう、なんでそんなこと言うのだろう
なんでなんでと夏油さんの言葉に理解が追い付かず、焦る私を夏油さんは面白そうに微笑んで見ていた。
『夏油さん...助けてください』
何が正解で何が不正解で、そんなの分からないけど私がそう言うと夏油さんは無言で私の横を通り過ぎ建物の中へと入っていった。
黙って建物の入口の闇に飲み込まれてく夏油さんの背中を見て、早くなる鼓動を抑えたくて、みんなの無事を祈るように握った手をグッと胸に押し付けていた。
夏油さんが入ってすぐにスーツを着た女性が近付いてきて「皆さん大丈夫なのでここから少し離れましょう」と促してきた。
夏油さんが乗ってきた車の運転手だと彼女は簡単に自己紹介をしてくれた。
彼女の話を聞きつつも心配で後ろ髪が引かれていると「夏油さんが居るので安心してください」と言ってくれたおかげで私は彼女に従って建物から離れた車の付近でみんなの帰りを待つ事にした。