第12章 10
「カノンちゃん、こっち向いて」
そう言うと五条さんは私の体を自分の方へと向かせた。
なんとか拭ききったけど、私の顔はグチャグチャだ。
「ぷっ、汚い顔だなぁ〜」
『じゃあ、見なきゃいいでしょ!』
笑う五条さんに恥ずかしくてキレてしまった。
五条さんの手を振り払うと五条さんは笑いながらその手を掴んで自分へと引き寄せた。
「汚くても良いよ。俺には可愛く見えるから」
『何言ってるの』
「本当の事だよ。俺には世界一愛おしく見えるし、俺の事が大好きで大好きで仕方ないんだよね〜うんうん」
『なにそれ...』
違うって言いそうになったけど、五条さんが「愛おしい」と言ってくれた言葉が嬉しくて抱きしめてくれる五条さんに縋る様に抱き着いた。
「知らない男とデートはするし、名前も呼んでるし、面白くなかったけど甘えん坊で素直なカノンちゃんに免じて許してあげよう」
なんだ。やっぱり少し機嫌悪かったんだ。
嫌な思いをさせてしまったことに申し訳なく思っていたらこちらに顔を近付けてきたので反射的に一歩下がってしまった。
案の定、面白くなさそうな顔をしている。
「なんで離れた?」
『いや、急に近付いてきたから』
「...許そうと思ったけどやっぱり、やーめた!」
『えぇっ』
悪気は無かったのに...そっぽを向いてしまった五条さんに困っているといつもの意地悪そうな顔でこちらを見た。
「許して欲しい?許してあげようか?」
『え?あ、はい』
「じゃあ、キスして」
『えっ!』
「キスしてくれたら許す!はやくはやく〜」
五条さんの提案に血液が顔中に集まって赤くなるのが分かった。
はやし立てる五条さんに困ったけど、自分からキスをするのはハードルが高すぎる!!
迷った挙句に五条さんの手を握った。
「ん?」
『ごめんなさい。そーゆうのはまだ、ちょっと、は、恥ずかしいので...こ、これで』
異性の手を自分から握るのは初めてで、手汗が止まらない。
緊張で小刻みに震える手を止めたくて少しだけ握る手に力が入った。