第12章 10
『私、本当は卑しいんです!』
「...え?」
『五条さんが逢いに来てくれるのが嬉しいし、手を握ってくれるのも帰り際に抱きしめてくれるのも本当は嬉しいんです!でも、それを素直に受け取ったら五条さんが離れていく時に絶対に悲しくなるから...だから自分から求めるのは止めようって思ってて、でも、どんどん欲深くなって...もっと一緒に居たいって思ってて、でも、私がそんなこと思ったら五条さんきっと迷惑に思うと思って...』
言いたい事がまとまらない。支離滅裂。何言ってるんだろう。
聞いてるだけで恥ずかしい。
もう駄目だ。
恥ずかしさや苦しさや言ったことによる解放感で気持ちが追い付かず涙がポタポタとコンクリートに落ちていく。
『さっきだって、自分のこんな感情に嫌気をさしてたら五条さんが居て、わたし嬉しくて...いつの間にか気持ちが軽くなってて、私いつも五条さんに貰ってばかりで何もしてあげられないのに自分の欲ばっかりでごめんなさい。本当にごめんなさい。こんな自分...大嫌いです...』
もうこんな気持ち欲しくない。
このまま流れて消えて欲しい。
早く早くいつもの自分に戻りたい。
涙を拭こうと五条さんと握っていた手を離そうとしたら五条さんが強く握ってて離して貰えなかった。
ヤバい...鼻水が垂れそうだ。
『手、離して...』
「ヤダ」
『お願いだから離して』
「なんで?」
『鼻水垂れそうだから!!』
泣いてたかと思えば突然キレ出して手を振りほどいた。
自分の情緒不安定には本当に尽く呆れる。
五条さんから背を向けてハンカチとティッシュで顔の処理に勤しむ。
もう帰りたい。
気まずくなって前を向けずにいると五条さんが後ろから抱きしめてきた。
笑ってるのか肩に乗った五条さんの頭が微かに揺れていた。
「ねぇ...なんで、今それを言うの?」
『だって、苦しいんです。もぅ...辛いです。』
「それ、どうやって治すかわかる?」
『分かんない』
「俺は分かるよ」