第12章 10
こんな事、今日会った人に言う話じゃなかった。
雰囲気最悪だ。もう帰ろう。
帰って落ち着かせよう。
フッと息を吐いてゆっくりと顔を上げた。
『そろそろ、戻りませんか?』
「もう帰っちゃうの?」
『え?』
淳さんじゃない声に隣を見ると私と淳さんの座っていたベンチの後ろに五条さんが居た。
『な、に、してるの?』
「ん?アッチで傑とオッチャンと釣りしてたらカノンちゃんが見えたから来た。」
『あっちって...遠っ』
五条さんが指した方には指先くらいに小さい灯台が見えた。
あそこからここまで歩いてきたの?
てか、よく見えたな...私から見ても人がいるのか見えないのに
「カノンちゃん、どちら様?」
『あ、佳奈子の知り合いの淳さんです。』
「ども」
五条さんに聞かれて、淳さんを紹介すると淳さんも突然、現れた五条さんに驚きつつも挨拶をした。
「こんちゃ〜、わざわざカノンちゃんを連れてきてくれてありがとう。これよかったらドーゾ」
そう言って、五条さんは持っていた袋を淳さんに差し出した。
渡された袋を除くと大きな魚が1匹ドンッと入ってた。
「焼くなり煮るなりして皆さんで召し上がって。行くよカノンちゃん」
『ぁえっ、ちょっと!五条さん!』
そう言って歩き出す五条さんを呼び止めようとしたが先を歩いて行ってしまってどうしようか困っていたら、淳さんが手を招いてた。
「行きな。俺が2人には伝えとくから」
『でも...』
「さっきの話、彼の事でしょ」
『え?』
「言わなきゃ伝わらないし。言って、傷付くのはカノンちゃんだけ。言わないで傷つくのはカノンちゃんと彼だよ。相手を傷付けたい?傷付けたくないならちゃんと言いなよ」
淳さんの言葉はよく分からなかった。
分からなかったけど、行きなって言われてしまったからこそ五条さんの後を追った。
さっきまでドロドロしていた感情が五条さんに会えて嘘のようにスッキリしてて、体が軽くなってあっという間に五条さんに追い付いた。