第9章 8※8巻内容有り
「おまえ、飽きたからもう要らない」
夢の中の五条さんはとても冷たく「飽きた」と一言告げてきた。
冷たい言葉を受け止めきれずに現実に引き戻された時計の針を見ると時刻は午前3時。
カーテンから漏れた朝日で机の上に置いたままの黒いバッグが群青色に見えた。
寝起きの重たい身体を引きずってバッグの前に座る。
バッグの中を見るとやはり水筒は入ってて、洗いに出そうと水筒を出すと少し凹んでて、ピンク色の塗装がポツポツと剥がれていた。
人からの借り物を大事にできないのは彼らしいと言えば彼らしい。
でも、きっとこんなに傷を付けてしまってるんだから彼なら「ゴメンね〜お詫びにデートしよ」とか言ってきそうだなと思ったら余計に心が虚しくなって、急いでその気持ちを払拭しようと水筒を乱暴に持つと中からゴンッと鈍い音がした。
音の主は水筒の中なのかもう一度、確かめるために勢いよく振るとゴンッゴンッとやはり中から鈍い音がした。
想定外の音にドキドキしながら水筒の中を開けると暗くて中身が確認できない...けど何かが入っているのが確認できた。
逆さにして中身を出すとサラサラと白い砂と白い貝殻が出てきた。
慌てて水筒を上に向けて砂を止めると机の上に広がった砂と貝殻で小さな浜辺ができた。
片付けようとお弁当袋を持ち上げるとまだ重みがあって、他に何か入ってた?と思って覗くと暗かったせいか気付かなかった...黒いケースが底の方に入っていた。
平たい黒のケースは高級感があって、ケースの上にブランドロゴが入ってた。
ブランド物は疎くて何のブランドかは分からない。
予想外の物や出来事ばかりで先程まで落ちこんでて静かだった心臓が突然、ドキドキと大きな音を立て始めた。
開けてみると中には青い宝石が一粒控えめについたシンプルなネックレスが収まっていた。
宝石は控えめなサイズなのに暗闇の中でも輝いていてしっかりと存在感を表していた。
『綺麗』
箱の中にメッセージカードが添えてあった。
添えてあるメッセージカードを開いてみると如何にも...なのか、五条さんらしくて笑ってしまった。
笑ったと同時に安心した、実感した、急にまた胸が苦しくなって涙が零れてしまった。
“ 寂しい?”