第9章 8※8巻内容有り
なんて返事をすればイイのだろう...
拓海の考えが分からず返事に困っていると少し離れた所、家の少し前に人影が見えた。
そちらが気になって見ていると、私がある一点を見ている事に気がついた拓海も私が見ている方へと目線を移した。
こちらを見たまま微動だにせずの人影にゆっくり近付くと、その人は眉間に皺を寄せて、あまり機嫌が良くないのか...不機嫌そうにこちらを見ていた。
「こんばんは」
『こんばんは...』
「初めまして。七海と申します。夜分遅くに失礼...武笠カノンさんですか?」
『あ、はひ』
全く知らない人から突然、自分の名前を呼ばれて間抜けな返事をしてしまった。
しかし、彼はそんな事も気にせず私の前に黒い袋を出してきた。
「こちらを預かってきたので、お返しします。」
『え、あの、これ...』
「五条さんからです。」
私があの時、五条さんに渡したお弁当の袋だ。
袋を受け取ると少しズッシリとした重さが手に掛かり、中に水筒が入っているのが分かった。
「それでは、失礼します。」
『あ、あの!』
「はい」
『五条さん、お元気ですか?』
そう聞くと七海さんは眉間にまた皺を深く刻んで、少し間をあけて
「元気にしてます。ウザイくらい」
と言って、軽く一礼をして帰って行った。
思ったより早く帰ってきたお弁当袋と水筒。
返してねっとは言ったけど、まさか人伝だとは思わなかった。
もう帰ってきてるんだ。
会いにも来ないし、連絡もくれないのか...
七海さんが居なくなって、拓海と2人きりになったが、さっきの返事をしないと...と分かっていても、返ってきたお弁当袋の重さに気持ちがついていけず苦しくなってしまい『おやすみ』と一言出すのが精一杯で、家へ入ってしまった。