第9章 8※8巻内容有り
「武笠さん、コッチに来て衣装合わせしよう!」
『待って!すぐ行く』
あれから本当にすぐ忙しくなった。
衣装合わせに舞台のセット作り、劇の練習。
更には委員会の仕事でコンテストの準備や備品の管理。
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
そして、母が退院した。
術後も治療経過も順調で定期的な通院や自宅での安静は余儀なくされるが母が家に居る。
それだけでどんなに疲れていても頑張れる気がした。
毎日が忙しくて楽しくて『寂しい』なんて言葉は一個も出てこなかった。
でも、家に帰って部屋に戻ると少しだけ物足りなさが出てきた。
21時になって窓をコンコンと叩く音や変な人形が増える事やココアを入れる事が無くなったから。食器棚のマグカップコーナーの前を陣取っていたターコイズブルーの陶器のマグカップがいつの間にか後ろの方でひっそりと持ち主が来るのを待っているように感じた。
「武笠さん、衣装着れた?」
『あ!うん!待って、着れたよ!』
考え事をしてたら手が止まっていて、声を掛けられて慌てて着替えた。
淡いブルーを基調とした魔法使いの衣装は長いローブが身体をスッポリと覆い隠してくれて如何にも魔法使いな感じだ。
衣装班の子達が嬉しそうにこちらへ集まってきた。
『大丈夫かな?』
「んー!良いわ!てか、素材良すぎて勿体なーい」
「ねー!武笠さんが王子役だったら良かったのに!!」
「分かるー!それだけで女子ファンが集まるよね(笑)」
「まぁでもこんだけイケメンの魔法使い出れば王子役じゃなくてもファンは集まるよ」
「「確かに(笑)」」
『はははっ』
何回も言われてる言葉なのに毎回なんて返事をすればいいか分からなくてついつい笑って誤魔化してしまう。
五条さんが聞いたらまた「気持ち悪い」なんて怒って言いそう。
「武笠さん?」
『わ、はい!』
「大丈夫?具合悪い?」
ヤバい、話を全然聞いてなかった。
心配そうにみんながコチラを見ている。
『ゴメン、聞いてなかった。具合悪いは大丈夫』
「そう?」
「でも最近、武笠さん元気ないよね〜」
「わかるー!なんかカラ元気みたいな?」
『そうかな?忙しいからかな?』