第1章 序章
「じゃあ、貴方はどちら様かしら。貴方の質問に答えたのだもの。私の質問に答えてくれてもいいわよね?」
「…鬼殺隊ってもんだ。」
「あら、嘘でも言うかと思えば。」
「言ったってしゃあねぇだろ。」
頭を掻いてバツが悪そうに言う男。そういえば、いつまでも男、男と呼んでいたら失礼かもしれない。心の中でだけど。
「では、筋肉逹磨さん。いくつか質問が…」
「おいこら待て」
「?何かしら。」
「なんだその地味な渾名は。」
「「…」」
沈黙。
そんなに筋肉達磨って地味なのだろうか。きんにく、だるま。七文字、地味だろうか。そもそも文字数に地味とかあるのだろうか。
「…えっと、筋肉達磨は、私にとっては派手な部類なのだけど。」
「俺にとっちゃ地味だな」
「そう、それなら謝るわ…」
再び訪れる沈黙。
どうしよう、治療以外で人間と話をするなんて滅多に無いことだし、何を話せばいいのか分からない…
きんに…男は部屋から出ていく気配は無い。
「まだ用事があるのかしら…?」
「んや、ねぇけど」
「…そう。」
ならなんでいるんだ。前世ではいろんな人と話していたが、だからといって話術があるかと問われたら否なのである。ど、どうすれば…
「…あの」
「なんだ」
「外は今、雪でも降っているかしら。」
「…はぁ?」
精一杯考えた結果が「外の様子を尋ねる」だったんだから、あからさまに驚いた様な顔をするのはやめてほしい。
「気を悪くしたなら謝るわ。私、外に出られないから気になっただけなの。」
「…出られねぇ?出ないんじゃなくてか?」
「は?」
今度は私が素っ頓狂な声をあげた。出ない?私が出ようとしてないって事?詳細を聞くと情報源は村のものであると男に言われた。
私は意を決して扉に向かった。
「今夜はもういいわ。お下がりなさい」
「いえ、それは」
「それなら声が聞こえない距離まで下がって。」
「かしこまりました。」
返事をした扉越しにいる見張りの移動する音を聞き届けて再び男の方へ戻った。男は何をしているか分からない様で私を見ていた。観察されているみたいで不愉快だが、まぁよしとしよう。
「見張りは退かせたわ。貴方の知っていること、教えなさい。」
「…成程?」
ニヤリと笑う男。どうやら意味が分かったらしい。
「つまりは一対一で話がしたいと。」