第1章 序章
次に目覚めた時は、若い男女の姿があった。
いやいや何言ってんだよって思うだろう。私も思った。
普通私は奇跡的に生き延びて、目の前にいる男女は医者では、と判断するだろうが、私は違った。
何故なら、男女は医者が切る様な白衣ではなく、着物を着ていたからだ。
え、いや、なんで着物?しかも周りも昔の家みたいでクーラーなどもない。
私はと言うと、八つぐらいの背格好に同じく着物。
いや、だからなんで着物?
「あぁ…目が覚めたんだね!よかった…!」
「あなた…そうですね…!」
状況から察するに、二人は夫婦…そして私は、予想が合っていれば二人の…子供だ。
それから私の思考が追いつくのは早かった。これ前世の友達が言ってた転生ってやつなのでは?と真っ先に結論が出たからだ。確かなのは、私はもう元の世界に、いや、あの子とは会えないと言うこと。
『幸せ』が崩れ去った瞬間だった。
目紛しく過ぎていく日々の中で重要なのは三つ。
まずは、ここは明治時代だと言うこと。しかも終わりかけ。もうすぐ大正になるだろう。
次に、私には特殊な力があったこと。それ即ち、癒しの奇跡。言うところの治癒魔法だ。私の能力は瞬く間に村中に広まった。
最後に、私は小綺麗な部屋に閉じ込められたこと。食事などを持ってくる人間と、私の能力を求めてやって来る人間。その人間に村の様子を聞いたときは呆れたものだ。村は裕福で賑やかだったと言った。つまり、私をつかって金を稼いでいるということだ。
それから数年。
見ず知らずの他人を癒しては寝込んで。どうやら、私の能力は使いすぎると体に負担がくるらしい。いつもその繰り返しだった。もうこの部屋で一生を過ごして、死ぬんだって思っていた。
そこで来たのがあの筋肉がすごい大男だ。
窓から入って来たり変な刀を持っていたり…怪しいとしか言いようが無いが、あの男さえ丸めこめば私は晴れて自由の身だ。
「私はその『おに』とやらでは無いわ。その刀を退いて。」
未だ殺気を送ってくる男を睨んで高飛車に振る舞った。この喋り方は『巫女』の時に舐められない様にといつもしている演技であって、本来はこんな喋り方ではないのでが、この男が信用できない以上しょうがない。
「…チッ。」
舌打ちをして刀を退けられた。一先ずいきなり首掻っ切られるなんてことにはならなかったね。うん。