第2章 柱〈前〉
ピクリ、と眉が引き攣る。あの男の名を聞くだけで虫唾が走る。それがなんだ、と不穏な気配を醸し出しながら聞く。
「任務の鬼がなかなか尻尾を出さぬようでな!冨岡の管理区域を交代でみることになったのだ!」
「そうかよォ」
「不死川にも協力してもらいたいと思ったのだが…」
どうだろうか、と尋ねる煉獄。勿論参加するつもりだが、あの少女が安全かどうかを見極めるために屋敷に置いているのに自分がひっきりなしに家を開けるのも問題だろう。
「あいつが胡蝶のところへ行ってからならいけるぜェ。」
「そうか!礼を言う!」
そう言い席を立つ煉獄。用件はそれだけらしい。前まで送ろうとした時、煉獄が廊下で止まる。どうやら食事に誘われているらしい。不死川自身も。毒が入っている訳でもないだろうと思い、不死川は頷いた。
煉獄を送ったあと、少女は食器などを洗い終えまた庭にいるようだった。
「…昨日もそこにいたなァ」
不死川は目を閉じ涼んでいる少女に声をかけた。昼のことは…覗いたと思われたらたまったものではないので黙っておく。
「…そう、ね。ここは、好きだから。」
いつも宇髄などにはいきなり話しかけてくるなと言っているからてっきり怒ると思っていたのに拍子抜けである。庭にいき少女の隣に座った。少女はここに来ていいかと言うが、こんなところに来て何が楽しいんだと疑問に思う。年相応に街などに行けばいいのに。十三だったか。たまにこの少女は本当に子供かと疑ってしまう。
「お前、母親は好きかァ」
気づけば口走っていた。聞かなかったことにしてくれと頼む前に少女は応える。
「好きでは、ないわね。でも、感謝はしてるわ。」
儚げに言う。好きじゃないのに感謝してる、か。きっと複雑なことがあったんだろう。
「それから、大好きだった。」
今度は楽しそうに言う少女。不死川には分からなかった。どうして同じ人間を想うのにこんなに表情が変わるのだろうか。まるで母親が二人いたかのようだ。
「…そうかァ」
「…そうよ。」
不死川は立ち上がり屋敷に上がった。あの少女は、よく分からない。そう思いながら、自室に戻った。