第2章 柱〈前〉
しかし、もしものことがあったら。あの少女は痛みに人一倍敏感なのだと言う。それなら数日前のように…倒れていても、可笑しくはないのではないか。嫌な考えが頭をよぎって、無意識に足は庭の方へと向いていた。
庭に降りて、少女の側へよる。すうすうと寝息をたてる少女に安堵した。顔色が悪い訳でもない。本当に眠っているだけらしい。
考えすぎだと己の頭を振る。あれから何かと倒れていないか心配してしまう。自分が竹刀でやったというのもあるだろうが。
「んんぅ…」
気持ちよく寝ている。流石にそれを眺め続けるというのも如何なものだろうか。自分が仕事中だったことを思い出し立ち上がる。
「かあさ…ん…」
足が、止まった。自分の過去が過去なだけに、そこら関連の言葉は聞き捨てならない。
「ごめ…」
『やめて母ちゃん!』
『ことォ!!』
『兄ちゃん!たすけ』
『人殺し!!』
寝言の続きは「ごめんなさい」か、別の言葉か。考えるだけで昔のことが、この世で一人になってしまった兄弟の言葉が蘇る。
「…お前は」
お袋に、愛されたのか。
来る訳もない返事を待つ。
やがて不死川は、少女に声をかけることなく仕事へと戻っていった。
「む、不死川!息災で何よりだ!」
「…煉獄じゃねェかァ。」
不死川が任務から帰還し家に帰ると、家の前に見知った人物が立っていた。不死川に用があると言う煉獄を家にあげる。
「お帰りなさい…お?」
ぱたぱたと走り寄ってきた少女は煉獄を見て足を止めた。そういえばこの二人は会議以来だったな、などと思いつつ少女に声をかける。
「宇髄と甘露寺はどうしたァ」
「えっと、二人とも任務よ。帰れないって。その方は?」
「夜分遅くに失礼する!俺は鬼殺隊炎柱、煉獄杏寿朗だ!不死川に用があってな!」
「…そう。」
少女の様子に不死川は眉を潜めた。初めて自分と会った時も怯えてはいたが、煉獄にはまるで本能で怯えているような…
目も合わせようとしない彼女に不信感を抱きながら煉獄を自室へと案内した。
「あの少女は確か異能を使うのであったな。どうなのだ?」
「…仕掛けとかではないと思うぜェ」
蝶屋敷にいた時に間近で異能を見たが、あれは本物だ。認めようがない。まぁ、お館様に危害を加えないかは分からないが。
「で、話ってなんだァ」
「それがな、冨岡のことなのだが」